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第3話

 ――あ。嘘!? 本当に!?   しばらく待っていると見覚えのある人影が商店街の方からここに近づいて来るのが見えた。  蘭だ。浴衣だ。蘭が浴衣姿だ!  僕は思わず駆け寄って抱き締めたくなったが、思い留まった。だって、今までの駆け引きをなかったことにしたくなかったから。――と、いうのは、建前で。蘭がどんな感じで僕のことを待つのかが気になったからだ。  ……僕って性格悪かったんだ。  蘭は俯いて目の前の芝生を蹴り散らかしている――かと、思えば、急に顔を上げてきょろきょろして周りを見渡している。  ……可愛いなあ、蘭。  衿を正している。そこから見える艶っぽい色白の鎖骨が堪らない。  ……あ、また俯いた。今度は裾が気になったのか? どうしよう。楽しい。僕には覗きの趣味なんてないはずなのに。でも、見ていて飽きない。だってマジ可愛い。  着るのを渋っていた浴衣がよく似合ってる。辺りが暗いからはっきり色はわからないけど、少し離れた街灯を頼りにすれば……茶色。蘭の白い肌に茶色の浴衣なんてミルクチョコレートみたいだ。  蘭が顔を上げ商店街の方を見て溜息を吐いてる。  そしてまた俯いて目の前の塊――たぶんあれは芝生の間にあった小石か何かだろう――を蹴っている。また商店街の方を見る……を、繰り返す。  ……蘭も僕と同じ気持ちだったのだろうか? 不安だったのだろうか?  何だかそんな彼を見ていると可哀相になってきて自分がした行為が恥ずかしく思えてきた。  スマホを確認すると19:25。 「げっ」  とっくに待ち合わせ時間は過ぎていた。どんだけ覗き堪能してんだ! 僕は。  ……僕が謝るべき、だねえ。 「お待たせ。蘭」 「バカ。おっせーんだよ」  さっきまでの不安顔はどこへやら。いつもの憎まれ口で僕を出迎える蘭。 「うん。遅れてごめんね」 「……バカ歩宜」  眉宇(みう)(かげ)をつくり、口をへの字に曲げて僕の顔を睨む。 「うん。ごめん」  僕は素直に謝る。すると、 「ほら、花火始まっぞ!」  と言って、僕の手首を蘭が、ガッと掴む。  僕はその手をぐいっと引き寄せて蘭の顎を捉え口づける。 「……ッ!」  ふいを突かれた蘭の口は大人しく僕に塞がれるが、その腕は僕の胸を離れろといわんばかりに押し返す。それでも僕が離さないでいたら次第にその抵抗も弱まり「…あっ」と短く甘い声を漏らす。それを合図に僕は彼の胸もとに手を滑らせ突起物に触れた。 「ああっッ」  蘭が()がる。  いったん唇を放して彼の目を見つめ、 「不安だった?」  と、尋ねた。僕は不安だったよ、と付け加えて。 「うるせえよ」  返ってくるのはいつもの憎まれ口。でも、手から伝わってくる心音は早い。 「素直じゃないね、蘭は。でも、そういうところもホント……好きだ」  不安になる時もあるけど、やっぱり僕はこの憎まれ口も含めて蘭が好きなんだ。  胸に置いていた手を浴衣から出し両腕でがしりと蘭を抱きすくめる。あんなにツンツン言っていたくせに素直に僕に抱かれている蘭。  ……本当に可愛いなあ、もう。

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