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9,俺たちはオメガに屈服する

 四月某日。  開花宣言を一週間前に済ませた桜の木はあっという間に満開を迎えていた。すでにチラチラと散り始め、若々しい新緑を覗かせている。  響は桜色に染まった大学内を新しい友人らと共に歩き、校門前で手を振って別れた。  待ち合わせの時間は約一時間後。電車で三つ隣の駅で、今から向かえば充分に間に合う。  響は駅の方面に歩き出したが、立ち止まってカバンの中身を探る。カバンの中には財布と教科書・・・・・・ごそごそと漁り、踵を返した。  借りていきたい資料があったのを忘れていた。  あと二、三日でアレがくる時期だから、図書館に寄っていかなければ。入学して間もないけれど、休学期間中のレポート提出は免除にならない。発情期間中の様々な体調不良と格闘しながらレポートを仕上げるのは中々にしんどいらしく、オメガの先輩に体験談を聞いたときには戦々恐々とした。  しかし、これも大切な訓練なのだという。  オメガの身体から発情期がなくなるのは妊娠しているときだけで、一生付き合っていくものだ。社会に出るためには、まず自らが発情期を「社会に出られない」理由にしないこと。  厳しい言い方をするならば、身体の辛さを甘えの理由にしないこと。  番がいない場合はフェロモンが出てしまうので結果的には外に出られなくなるが、自分の身体と向き合い体調をコントロールできるようになれば、将来に出来ることの指針になり、選べる職種の幅が広がる。  響は東城と殿坂と生きる未来を選び、番を作らない決意をした。  誰とも番にならないということは、番が受けられる国の優遇制度を放棄するということで、フェロモンの影響もなくならないということ。  これから響には越えていかなくてはいけない困難がたくさん待っている。だからなおさら、逆境にも負けない生き方を見つけたいと意気込んでいる。近くに頼れるアルファの二人がいるけれど、好きだからこそ迷惑はかけたくない。  素直に甘えられない男心の部分が強く顔を出していて、複雑な心境なのだった。  また大学が課題を『提供』するのには別の意味合いもある。社会との関わりを完全に切ってうちに篭ってしまうと、発情期中のナーバスな精神状態のせいで社会から弾き出されたように感じ、そのあと出てこられなくなるオメガの学生が一定数いるらしいのだ。  無理のない範囲で大学から課題を与えるのには、休んでいる間に他学生に置いていかれないようにするためだけでなく、たった一人で発情期に耐えるオメガの学生に社会との繋がりを認識させ、それを防ぐ意味があった。  ・・・・・・との理由で響も明日から発情期終了まで休学に入る。さっそく出されたレポート課題用の資料を探すために、大学内の図書館に向かった。  館内をうろうろと何周かしながら目的のものを借り、響はハッとする。  大学を出ようと思っていた時間を大幅に過ぎていた。  響が想いを伝えたあの日から発情期が一度来た。殿坂に相手をしてもらったのだが、東城とはまだ深い関係になっていない。てっきり卒業式の日に抱いてもらえるかと思っていたのに、三月が終わるまでは栞ノ葉学園の生徒だからなんて律儀なことを言うもんだから笑ってしまった。・・・・・・落胆したけれど、先生らしくて怒れなかった。  ところが、四月に入ると互いに忙しくなってしまった。殿坂は進学先の大学でも有名人で、色々と付き合いがある。今後のために仕事を学んでおきたいと、トレードマークだった派手な金髪を暗く染めて、自主的に父親と兄の職場で勉強している。  一方、東城は普段の仕事に加え、新生徒会の設立と運営で休みない日々を過ごしていた。あの事件を経て、殿坂は自身の代でクラウンを解散させた。その後は東城が引き継ぎ、アルファとベータの生徒を織り交ぜた『普通』の生徒会が設立された。  響から見たらたったそれだけの小さな変化であるのに、学園側とアルファ生徒の保護者からの反対意見が想像以上に苛烈であり、当初の話し合いは難航していた。  それでも東城が諦めずに説得を続けたおかげで、栞ノ葉学園は少しずつ風通しの良い場所に変わり始めている。  純が用意したキング候補の生徒は、気がつくと学園から姿を消していた・・・・・・。  そんなこんなで、今回が三人で迎えるはじめての夜。そして発情期になる。  ———急ごう、早く会いたい。  だがはやる気持ちで校門へ走っていたそのとき、突然、息が苦しくなった。  胸がドクンと大きく跳ねたかと思うと、ギュッと絞り上げられるように痛む。痛みを覚えたのは最初だけで、徐々に体温と息が上がり、急激に腰が重だるくなる。嫌な予感が頭をよぎった。  ———もしかして二人のことを考えすぎて、ヒートが早まった・・・・・・? 「ハァ、ハァ、駅まで・・・・・・でも、だめだ」  フェロモンを撒き散らして電車には乗れない。待ち合わせの駅で二人が待っていてくれるから、乗れさえすればすぐなのに。  この場所も危険だ。外で幾分か匂いが分散していたとしても、近くに寄られたら気付かれてしまう。アルファに出くわさないことを祈り、響はふらつく足で医務室に向かった。  オメガ専用の医務室なら安全。そこで二人と連絡を取りたい。  あと少しで駆け込めるという一歩手前、強い眩暈が遅い、響は膝に手をついた。脳裏で危険信号が点滅している。  ここで動けなくなるのはまずい。首を伝った汗を拭った瞬間、響の口から「ひゃっ」と悲鳴が出た。  尻のポケットが振動している。スマホの着信だ。わずかな刺激に身体を強ばらせ、画面をタップして耳に当てた。 「響、電車乗っちゃった?」  聞こえてきたのは殿坂の声・・・・・・。響は安堵して、へたりと座り込む。  これから向かうとなると大遅刻だけれど、現在時刻は待ち合わせ時間のまだ十五分前。どうしたのと問うと、殿坂は「ふふん」と得意そうに鼻を鳴らした。 「アイツに内緒でむかえにいく」  響はフっと息をつく。なるほど。結局、甘えることになってしまうが、今は意固地になっている場合じゃない。 「ちょうどよかった・・・・・・。あのね、まだ大学にいる。ヒートが来ちゃって」 「え?! すぐ行くから! 通話は切るなよ」 「うんありがと、待ってる」  会話が途切れると、エンジンをふかす音がした。殿坂に似合うスポーツカーの派手な音。数日前に電話をしたとき、殿坂はカッコいい車を買ったから見せたいと言っていた。  たぶんその車で、むかえに来てくれるのだろう。  安心感から張っていた気が抜ける。  壁にもたれて息を整えていると、肩を乱暴に掴まれた。 「うわっ?!」  振り返ると知らない男がいた。悲鳴を上げた拍子に、スマホが手の中からすべり落ちる。  男は一目で引き寄せられてきたアルファだとわかる危ない目をしている。地面に落ちたスマホから「響?!」と心配する殿坂の声が聞こえ、拾おうとすると、蹴飛ばされて遠くへやられてしまった。 「・・・・・・やめて下さい、ここは大学内ですよ」 「フェロモンを垂れ流してるオメガのあんたの方が悪いよ。すぐそこの医務室にも入らないでアルファのこと誘ってるんでしょ?」 「ちがうッ」  男の言い分に響は負けじと反論する。 「この付近はアルファ学生の立ち入り禁止区域のはずです!」  決まりがあっても、実際この男のように彷徨いているアルファはよくいる。だが規定がある以上、大声で人を呼べば処分を受けるのはアルファ側だ。 「ちっ、生意気すぎてしらけるなぁ、お前のこと知ってるよ。栞ノ葉学園から来たからってお高くとまってると痛い目みるぜ」  粘着質な声と、近づいてくる男の顔。湿っぽい息に響が顔を逸らすと男の逆鱗に触れてしまった。 「こっち来い」 「や、誰か・・・・・・んぐっ」  助けを呼ぶ前に口を押さえられ、スマホは手の届かない場所にある。  なんとかしないと。これくらいは自分で対応できなければこの先も困る。響は息苦しく重だるい身体に鞭打ち、男の手のひらに歯を立てた。 「っ!」  一瞬、男がひるむ。その隙にと思ったが、アルファとオメガの筋力差は大きかった。押し倒され、拳が振り上げられる。  逆上した男の拳に目が釘付けになり、響は身体が硬直した。 「ひいっ」  食いしばった歯の隙間から悲鳴が漏れ、響の怯えた顔にアルファが満足そうに口元を歪める。もうこの顔には慣れている。けれど、一度染み付いてしまった恐怖心はなかなか消えない。  情けない。悔しい。  毎回のことながら、殴られる前からすでに敗北感で胸が潰される。涙が滲んだが、粉々になった心を掬い上げてくれる愛おしい声がした。 「申し訳ないが、彼を離してもらえるかな?」 「は? あんた誰だよ、今いーとこなんですけど」  殿坂はまだこちらに向かっている途中。スーパーマンでもない限り間に合わない。ならば・・・・・・? 「・・・・・・せんせぇ」 「もうその呼び方は卒業してくれないか、斎藤。誤解を招いたら良くない」  瞠目する響に、東城が冗談ぽく言う。それから地面に転がっていたスマホを拾い上げて、響の名前を呼び続けている殿坂に話しかけた。 「どうやら、俺たち考えていることは同じだったみたいだ」 『東城?! くっそ、・・・・・・響のこと頼んだからなっ、今度はしっかり守れよ!』 「ああ、約束する」  通話を切り、東城は響を組み敷いたままの男を睨みつける。 「君はいつまでそこにいるつもりかな?」  声から感じる静かな怒り。背筋が粟立つ。 「せんせ、暴力は」 「大丈夫だよ、安心しなさい」  そう言うと、東城は男につかつかと歩み寄り、耳元で何かを囁いた。とたん男は顔色を変え、響の上から弾けるように退ける。 「すいませんでした・・・・・・」 「うん、未遂で済んでよかった。見逃してあげるから、金輪際は彼に近づかないように」  よほど耳の痛い話を吹き込まれたのか、男は激しく頷き、一目散に走り去る。 「先生、何を言ったの?」  道具も暴力もつかわずに、魔法みたいにやっつけてしまった東城に感心した。  東城は響を抱き起こすと、口に指を当てる。 「秘密、まあ、アルファ社会は狭いからね」 「・・・・・・へぇ」 「はは、気になるなら今度教えてあげるよ。それより早く移動しようか。フェロモンがいい感じに匂っていて、そろそろ俺も我慢の限界。殿坂も待ってるよ」  じりっと空気が熱を帯びた。ケモノじみた瞳と顔に、響の心臓はどくりと脈打った。  ◇ ◇ ◇  ———一流ホテルの最上階。    ———国内最高ランクのスイートルーム。    ———に繋がる、専用エレベーター内。   「ン・・・・・・、ふ、んう」  響の口を塞ぐのは殿坂。後ろから抱き込まれ、首と顎をがっちりと押さえ込まれた状態で口腔内を掻き回される。ホテルで待っていた殿坂と落ち合ってから、彼に抱き締められ、一度も離してもらっていない。 「ひあん、や、せんせぇ」  背筋を貫いた快感に顎がのけ反った。響の脚の間で膝をつき、ペニスを吸い上げてくるのは東城だった。竿全体を咥えられて、上顎に先端が擦れる。同時に後ろの孔を指先でくすぐり、前は器用に舌を這わせて扱かれ、響は呆気なく東城の喉奥に精液を放ってしまった。 「は、あ、まだエレベーターの中なのに・・・・・・」  達した余韻で腰をビクビクと波打たせながら、響は羞恥に真っ赤に染まる。 「誰も見ていないよ、それに、こんなにしておいて恥ずかしいって言われてもね?」  意地悪く言う東城の指には、白濁液と窄まりから垂れた愛液がべっとりと絡みついていた。  東城の手はテラテラと光り、広げられた指のあいだがぬちゃりと糸を引いている。響が目を逸らすと、顎をくいと上げられ、殿坂に後ろを向かされた。 「そうだぜ響、お前だって欲しいだろ? いつもみたいにねだれよ」 「・・・・・・んん、言わないで、んあっ」  殿坂の猛り切った性器が腰にごりごりと当てられる。布ごしに感じる硬さと熱さにきゅっと後孔が締まる。 「そうか、殿坂しか知らない斎藤がいるんだな。悲しくて、先生は妬けてしまうよ」  東城は立ち上がり、響の耳にキスを落として囁いた。 「ふぁ、ん・・・・・・ずるい、こーゆうときだけ先生って自分で言うの」  後ろから前からアルファたる至高の匂いに挟まれて、響は陶酔感を味わう。  水の底に引き摺り込まれるかのごとく鮮烈で、本能的に狂い求めてしまう東城の運命の香り。  それごと水飴で包み込んでくれるような、たおやかで安心感のある殿坂の強い雄の香り。  二つは反発するようで、しない。どちらも欲しているからか、編み込まれたロープみたいに一体になって、心地よく響の身体を官能的に締め上げる。  最初に嗅いだときのように一瞬で意識が飛ぶことはなくなったが、鼻腔を駆け上がってくる刺激的で甘いフェロモンにうっとりとすると、頭がぐらぐらと沸騰して訳がわからなくなってくる。  脳みそがトロリと溶けて、気持ちいい。 「はあ、はあ・・・・・・、せんせ、殿坂」  響の発情フェロモンが急激に濃度を増した。アルファ二人の鼻息が荒くなり、尻と腹にペニスが強く押しつけられる。  愛おしい、はやく欲しい。響はムズムズと腰を揺らした。  エレベーターが開くと、服を脱がされながら運ばれる。  ワンフロアすべてがスイートルームになった豪華なつくり。エレベーターからベッドが遠くて、多分とても広い部屋なんだと思う。  けれど室内をよく観察する余裕なんてない。  生まれたままの姿でキングサイズのベッドに優しく横たえられ、響は待ちきれず濡れそぼった後孔に自分の指先を埋めた。  反対の手の指は口に咥えてしゃぶり、陰部からは夢中で指を出し挿れする卑猥な音が立つ。  すると股の間に埋めていた指を掴まれ、ぐちゅんとより奥へと誘導された。 「なるほどね。こうなるわけだ。でもやるならもっとしっかり拡げて、ほら手伝ってあげる」 「ンやっ・・・・・・せ、んせぇ?」  熱っぽく囁かれて見ると、東城の指がナカに一本追加で挿れられていた。  とたん、指を呑み込んでいる媚肉がうねった。性器はぷるんと立ち上がり、ぐすぐずと鈴口を濡らす。先生にナカを触って貰えたんだと思い、嬉しくて、腹の奥がジンとする。 「あ、今締まったね、自分の指が気持ちいいのか? それとも俺の? 斎藤は可愛いな」 「あ、あん、せんせ・・・・・・の」  キュンキュンと締めつけていると、響と揃えた指で内壁が擦り上げられ、自分では触れない場所まで拡げられる。 「アっ、あ、ンんん——」  腫れぼったく主張しているしこりを指先がかすめ、びくんと腰が跳ねた。指を抜こうとすると、止められて奥へと押し込まれる。 「駄目、気持ちいいとこでしょ」 「は、あ、ああっ、あああ!」  顔が火照り、しこりを擦られるたびに、響は上がりきった体温がさらに上がる感覚がした。 「響、俺のことも忘れないで、もっかいちゅーしよ」 「ふう・・・・・・ン、ン」  殿坂のキスを受けながら乳首を転がされ、もどかしい熱がますます下半身に溜まっていく。 「はあ、斎藤、殿坂、もういいか?」 「はは、たまんねぇだろ。先生がよだれ垂らして待ってるから挿れさせてあげような」 「ん、きて・・・・・・、せんせ」  すっかりほぐれて、淫猥に崩れた窄まりに東城のものがあてがわれる。響はひくひくと誘うように口を開けている蜜孔を、逞しく反り返った性器に擦り付けた。  このときを待っていた。  東城はギラギラとした瞳でひとつ大きく息をつくと、響のナカを割り開いて腰をすすめる。張り出した亀頭のぶんだけ入口が拡がり、侵されるごとに響のナカはうねり、全身で東城に吸いつこうとしている。  奥深くまで貫かれた瞬間、響はギュッと全身に力を入れた。腰が浮き、びりびりと痛みを覚えるほどの絶頂感で意識が弾け飛びそうになる。 「あああっ・・・・・・い、いいよぉ、気持ちいい」  もう突かれるたびにイッているみたいに感じる。性器からは白濁した精液が少量だけこぼれて、ほとんど出さずに達し痙攣する。 「———ん、あ、先生ぇ、ンああ・・・・・・ッ」  東城は苦しげに瞼を伏せ、響のナカを穿った。  響は東城の首に腕を絡ませ、唇を寄せる。二人が口付け合う様子を見て、殿坂が響の髪を撫でた。 「よかったな」  そう言われ、溺れかけていた意識が浮上する。ズンズンと突き上げられて揺らされている響の身体を、殿坂は愛おしむように見つめていた。  その顔に、響はじわっと胸が切なくなった。 「殿坂も・・・・・・ちょうだい」  東城の肉竿が突き刺さって拡がったそこに、響は指を這わす。 「どうすんだよ」 「挿れて、一緒に」  白濁と愛液にまみれてぬちゃぬちゃと泡だった結合部。繋がった箇所に触れると、ぴくんと東城が目を開けた。 「ッ、斎藤・・・・・・無理はするな」 「そうだ、傷ついたらあとで辛くなるぞ」 「や、欲しいの・・・・・・せんせは、いいよね?」  ナカに東城の充溢を感じたまま、響は仰向けで受け入れていた体勢を後位に変え、二人を交互に見上げる。東城はごくりと唾を呑み込み、殿坂は唇を噛んだ。 「痛いと思ったら絶対に言えよ」 「・・・・・・ん」  響が殿坂の上に跨ぐと、すでにいっぱいのそこに指が入ってくる。 「あっ、あ」  解けきった孔に痛みはない。隙間ができると、殿坂のものが捩じ込まれた。 「うあ、きつッ」 「・・・・・・くうっ、斎藤、力抜いて」  同時にアルファ二人の苦悶の声があがる。  ———だが、できないそんなの。苦しすぎる圧迫感で喉が引き攣り、総毛だった背中はぷるぷると震えた。ぐっぐっと太いものが押し込まれ、みちみちと隘路がこじ開けられていく。  ———なのに、おかしい。ぴったりと閉じていた場所を無理やり拓かれるのがたまらなくいい。拡げられすぎて感覚が麻痺しているのに、腹のナカに収まった二人の熱いそれが蠢めくのがわかる。  じゅわと愛液が溢れ出し、その滑りを借りて、二本の棒は中でそろそろと動き出した。 「ふ、ぅ・・・・・・んぁ、きもち、二人の・・・・・・きもちいい」  奥の奥を突かれ、ゴリゴリとしこりを擦られる。入口がめくれ、予想できない動きに、びくんびくんと腰が跳ねてしまう。  そうして感じているのをみると、二人の動きは大胆に深くなった。響が身を捻ってよがってしまう箇所を、競いあって責め立てられる。 「は・・・・・・ぁ、ああっ、あう、ん———っ!!」 「気持ちいいんだな・・・・・・斎藤。出そうだ、いいか・・・・・・ッ?」 「俺も出すぞ・・・・・・響」  二人がいっしょに最奥を抉り、熱い熱が迸った。たっぷりと種を注がれ、腰が弓なりに反る。 「んん、んんん———・・・・・・!」  ごぽっと音を立てて東城が抜けると、今度は動きやすくなった殿坂が下から激しく腰を振った。彼のものは硬さを失っておらず、むちゃくちゃにかき混ぜられ、響は息つく間もなく淫らな悲鳴を上げた。 「う、あ・・・・・・あ、ぅ・・・・・・ふぅ、あんん」   腹の奥で溢れた東城の精液と殿坂のそれが混ざり、大事なところに染み込み満たされていく。 「いい、殿坂・・・・・・すき。せんせ、も」  響は口元寂しくて、東城に目で訴えた。 「先生、響がおしゃぶりしたいって」  殿坂がゆったりと突きながら、目配せする。 「斎藤は欲しがりだな。とろとろで可愛いよ・・・・・・」  響の頬を撫で、東城は濡れた先端を唇に押しつけた。色気に満ちた雄の匂いに脳髄が痺れる。響は酔いの回ったふやけた顔で、眼前に差し出された逞しい性器を口に含んだ。割れた丸みに舌を這わせぺちゃぺちゃと吸いついていると、「こっちも」と抱き寄せられて乳首をなぶられ、全身どこかしこも気持ちよくて幸せが満ちる。  一人に出してもらったら入れ替わり、響は時間を忘れて何度も交わった。 「・・・・・・愛してるよ、俺の大切な響」 「ふざけんな、俺のほうが愛してる。ちゃっかり名前で呼んでんじゃねぇよ。ヒートが終わるまで部屋はとってあるから、響が満足するまでいくらでも抱いてあげる。東城がギブアップしても、俺が抱いてあげる」 「ふ、言うじゃないか、望むところだよ」  途中そんな会話が聞こえたような気がしたけれど、代わる代わるに、時には二人同時に愛されて、高みから降りてこられなくなっていた響の耳には、甘ったるく愛おしい音だけが聴こえていた。  一週間が明け、ようやく纏まった睡眠が取れるようになり、身体の自由が効くようになる。朝早く目覚めた響はバルコニーの夜風に当たりながら、パソコンにむかっていた。  窓を引く音に振り返ると、二人ぶんのコーヒーを手に殿坂がバルコニーに出てくる。 「こんな朝からやってんの?」 「うん、パソコン用意してくれてありがとう。休み明けに提出しないといけないのに、ぼうっとしちゃって全然進まなくて」 「そりゃ、そうだろ。とくに響は」  殿坂は眉を顰めた。 「けどやらないと、頑張らないと」  幸福感に包まれていた湯だまりの時間から出れば、現実が襲ってくる。  一生、首のプロテクターを外すことのできない未来を思うと、果てしない不安に呑み込まれそうになる。  頭からネガティブな思考を追い払って黙々とキーをタップしているうちに響の目に涙が滲んだ。  ぎょっとしたように、殿坂がコーヒーのマグをテーブルに置いた。 「ごめん・・・・・・気にしないで、ヒート中はメンタルがやられる」  目の前に大きくて真っ黒な壁があって、半透明なその向こうに二人がいる。近いのに遠くて、見えるのに触れない壁。触れないから登ることもできなくて、自分では絶対に越えられない壁。  自分独りが暗闇のなかに立ちすくんでいる感覚だった。  こちらから声をかければ、二人は手を伸ばして引き上げてくれるんだろうと分かっていても、それが素直にできない。  ここにくる前の出来事もそうだ。これから幾度となくアルファに襲われる機会に遭遇するだろう。あれくらい、自分でなんとか出来なきゃいけないと思っていたのに、また迷惑をかけてしまった・・・・・・。  ずぅんと沈んだ顔でキーを叩いている響を見下ろして、殿坂は溜息をついた。 「なんか出会った頃みたいな強がりが悪い方向で再発してんね」 「ごめん・・・・・・」 「ったく、情けねぇな俺らも。アルファが二人もついてんのに恋人に辛い顔させてさ」 「殿坂と先生は何も悪くない、俺が助けて貰いすぎてる」  するとそうゆうことかと呟かれ、肩にふわりと毛布がかけられる。 「なぁ響、響が思ってるよりもアルファの脳みそって単純なんだよ。響と出逢ってから俺はそれを知った。俺たちはさ、頼られたら嬉しくなっちゃう生き物なの。響が笑ってくれるためなら何でも出来ちゃうと思うし、アルファの力って案外そのために与えられたもんなのかなって最近は思ってる。完全にオメガ様々、ちょろいだろ?」  そう言って、殿坂はガシガシと俯いた響の頭を撫でた。 「わっ」 「けど単純で阿保だから力の使い道を間違ってるやつが多いんだよ。純さんの言葉じゃないけど、力を振り翳しているだけのアルファは確かにクソやろうだ。でも俺はそれじゃ駄目だって気づけた。東城もそうだと思う。つーか、あいつなんてまんまそうじゃん。あいつも自分の信念に従ってやれることやってる。その信念の中核にいるのは、もちろん響だよ」  響は頬を手で挟まれて、上を向かされる。視線を合わせると、殿坂は話を続けた。 「俺も。俺の立場だからこそ出来ることがあるから、それを最大限に活用するつもり。そのために最低な兄のとこで学んでるだぜ? 響が俺たちを変えて、動かしてる。響は俺たちにそれだけ多くのことを与えてくれてる」 「・・・・・・う、ん」 「あー、言わなくていいよ、お前は守られるだけじゃ嫌なんだもんな。よしよし、わかってる。こん詰め過ぎないでがんばれよ」  殿坂は笑いながら、ぴんと指で額を打った。 「いたっ、もうやめてよ」  やり返そうと立ち上がったとき、東城がバルコニーに出てきた。殿坂に掴みかかろうとしている響を見て東城は苦笑いをする。 「なに騒いでるんだ?」 「せんせ、ごめんなさい。うるさかったよね」  東城は徹夜明けで響に付き合ってくれ、行為を終えたあとは倒れるようにして眠っていたのだ。 「いいや、なんの話をしていたんだ?」 「・・・・・・んー、うん」 「東城はすげぇ変態だって悪口で盛り上がってた」  響が口籠もると、殿坂がしれっと適当なことを口にする。 「え、そうなの?」 「ウソ」  殿坂はケラケラと笑い、響の服を捲り上げて胸を揉む。 「や、まだレポートが終わってないって言ったじゃん」 「ヒート中なんだからいーの。こーゆうときくらいは、素直に甘えろ」 「ん、ちょっと・・・・・・見えちゃう」 「最上階だぞ? 見えるかよ」  ぞろりと耳朶を舌が這い、響は性懲りもなく感じてしまった。 「あん・・・・・・、んっ」 「まだ、足りないだろ。ほらセンセが興奮してる」 「おいっ、でもそうだな。まだ発情フェロモンがだいぶ匂う。こっちも濡れてるんじゃないか?」 「んや、先生までッ」  絡んでくる二人の腕を押しのけようとすると、カッと薄暗い空に光が差し込んだ。 「眩し———・・・・・・」  響は日の出の明かりに照らされて目を閉じる。同じタイミングで、両の頬に口付けが落ちた。  ・・・・・・。  ———もしも、殿坂が言ったみたいに世界の構造が違ったら。  ———すべてのオメガが、自分みたいに愛してもらえる世界をつくれたら。  その世界ではオメガが中心だ。その周りにベータがいて、アルファがいる。豆粒の大きさにも満たない存在のオメガを守り、囲うように丸くあればいいと思う。  そのために自分が出来ることはあるのだろうか。  オメガの在り方に疑問をもつだけじゃなく、疑問を形にして歩み出すことができるだろうか。  考えたい・・・・・・。これからは目を逸らさずに、彼らを見つめて。  その時間はたっぷりとある。  オメガ性に目覚めたばかりの自分の人生。それを知らなかった過去には戻れない。自分は悩ましい身体を抱えたまま、これからも未来に向かって歩いていくのだから。ひたすら続いていく道を、愛するアルファを両脇に従えて。 END

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