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これが噂の倦怠期? 1
――――…
「夢だ……」
またも前世の夢を見た。恵の記憶が戻ってからというもの、度々これがある。
パチパチと瞬きをすると、見慣れた白の天井が視界に入った。ああ、良かった。あの寒くて暗い倉の中ではない。ここはいつもの寝室だ。
「おはよう、圭介」
なんとなく、朝の自分へと挨拶を口にする。
すごく幸せな夢だった。正臣と恵が出会ってすぐの頃のだから、当然か。夢とはいえこうして客観的に見てみると、甘酸っぱい思い出だ。セックスの内容まで事細かに見てしまったものだから、朝だというのに尻の奥がもぞもぞする。
「ん……しょ」
俺は身体を少しだけ起こすと、隣で静かに眠る人物に覆い被さるようにした。幸せな夢を見るのは、今の自分が幸せだからだろうか? 夢の中のあの人と同じ顔をする彼の頬にそっと触れつつ、俺は口を大きく開けてあるものを咥えた。
「ぱくっ」
すると、ピクッと口の中でそれが動いた。ふわふわとした灰色の毛に弾力のあるそれを食みながら、尖った先に音を立てて吸いついた。食べ物ではないとわかっているのに美味しいものだから、つい口に含んでしまう。
「はもはも」
しかし決して遊んでいるわけではない。俺にはこの人を起こすという大事な使命があるのだ。決して遊んでいるわけではない。
「ほぅふふぇ……はもはも。おひふぇ……」
咥えながら声をかける。そしてれろっとその内側を舐めてやると、俺は唐突に両肩を抱えられた。
「うひゃっ?」
「こら。私の耳は食べ物ではないよ」
夢の中でも聞いた同じ音色のバリトンが、俺に笑って嗜める。ドサッとベッドへ戻されると、あっという間に立場は逆転する。
俺は悪戯がバレた子供のように、控えめに舌先を彼に見せた。
「おはよう。宗佑」
「おはよう、圭介」
ピンと立つ二つの狼の耳が、同時に動いた。音をつけるとしたら、ピコピコと鳴ることだろう。
そしてアンバーの両眼が優しく俺を見据えながら、音を立てて額に触れるだけのキスを落とす。
「ん……宗佑」
甘えた声を出しながら宗佑の首に両腕を巻きつけると、俺は僅かに身体を捩った。そんな俺の様子を目の当たりにして、宗佑は微苦笑しつつ俺の首筋に啄むようなキスをする。それまでしていたチョーカーも、宗佑の前では外すようになったから、直に彼の唇が触れて擽ったい。
もっと強く吸ってとねだると、そうしながら宗佑は俺の寝間着の中に手を挿し込み、腹から胸へと滑らせた。密着する身体をさらに近づけようと腰を擦りつけると、楽しそうに耳元で囁く。
「朝から随分と積極的だな」
「ううん。ちが、って……あっ……その……夢が……んっ……」
「夢?」
胸の上にある突起をコリコリと指の腹で転がされると声が震えた。元々敏感だったそこは宗佑の手でより感じるようになったからか、彼によって弄られることがすっかり好きになってしまっていた。
でも今回はそこよりも、俺の耳を責めることにご執心なようだ。耳介を舐めたり、キスをしたりと俺の反応を見て楽しんでいる。
「エッチな夢でも見たの?」
わざとエロティックな声を出して耳たぶを食むのは、おそらくさっきの仕返しだ。乳首をきゅっと摘ままれて、俺の身体はビクンと跳ねた。
「ふあっ……ん、変……?」
「まさか」
リップ音を響かせながら、宗佑は顔を浮かせてニヤリと口角を持ち上げる。
「可愛い奥さんだ」
そして胸の上まで寝間着を捲ると、舌を使って俺の乳首を愛撫し始めた。
「ん、はあっ……宗佑ぇ……」
膨らみのない薄い胸を、宗佑が丹念に愛撫する。乳輪ごと食んで突起を舌の先で転がされると、なんとも言えない刺激が身体中を走った。
「ちゅく……カリ……」
「ふあぁんっ!」
乳首を潰されるように甘噛みされると、一層高い声が溢れ出た。
「そうすけ……ん、もっと……もっと、して……あんっ……気持ちいい……気持ちいいのっ……」
俺は淫乱なのか。恥ずかしいことを口走っているのにも関わらず、それが止められない。羞恥よりも快楽を求めて、もっとと宗佑にねだった。
「圭介……ここだけでいいの?」
「ん……んっ……」
真っ赤に充血した乳首の先をトントンと指でノックしながら、宗佑は俺に尋ねた。
「可愛い乳首だけでいいなら、君が満足するまでたんと愛撫してあげよう。でも本当に望んでいるのは何なのか……言ってごらん」
ああ、意地悪だ。この人はわかっていてそう言うのだ。
「んっ、んんっ……宗佑、お願い……」
俺はコクコクと頷くと、おぼつかない手つきで下肢に纏っている寝間着をずり下ろした。宗佑はそれを手伝うように一旦、自身の身体を起こすも、それ以上は加担しない。
仰向けに寝ながら腰を浮かせ、なんとかそれを下着ごと剥ぎ取ると、俺はカエルのように大きく脚を割り開き、反り立たせた陰茎を彼へと見せつけた。
正直なところ、この格好はとても恥ずかしい。しかし宗佑は、俺に恥ずかしい思いをさせることが好きな隠れS男だ。はしたないと貶すどころか、舌舐りをしてみせた。
「いい子だ」
宗佑はパクリと俺のそれを咥えると、たっぷりの唾液を絡めて啜り出した。歯は当てないように注意を払いつつ、口と舌を使って根本から亀頭へと扱くような口淫を始めた。
頭を動かしてしゃぶるようにするそれはこちらが行うのならともかく、されるのは前世でも慣れなかった。自分が自分でいられなくなるようで嫌だからだ。
しかし宗佑が俺にそれをするようになってから、麻痺してしまったのか。今ではすっかり快楽に溺れ、ただ喘ぐだけとなっていた。
「はあ、あん……宗佑……んぁ……きもち、いいっ……」
「れろ……圭介。気持ちいいの?」
「うん……んっ、うんっ……」
「可愛いよ。圭介」
可愛いと言われながら、じゅぷじゅぷとやらしい水音を立てられる。気持ちが良すぎて頭がおかしくなりそうだ。
「やあんっ……宗佑……宗佑ぇ……!」
「いいよ。このまま出しなさい」
「んっ、あっ、あああっ!」
促されるがまま、俺は宗佑の口の中で達してしまった。熱い体液を放ちながら、背を仰け反らせてビクビクと身体を痙攣させる。
そして同時に、誰かの喉が鳴る音が微かに聞こえた。
「はあっ……はあ……はあっ……そう、すけぇ……」
「ご馳走さま」
胸を大きく上下させて喘いでいると、ペロッと下唇を舐める宗佑が、僅かに開いた瞼から垣間見えた。
俺が放ったものを飲んだのだ。決して顔を歪めず、むしろ微笑みを浮かべて言う宗佑は、俺の頬を愛おしそうにさらりと撫でた。
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