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外伝「ある破戒僧の愛」中編(1)
「あぁっ、アッ、ヴィル、も、出な……っ、ぁ、あ~~~~ッ」
「オレはまだ出せます、よっ!」
「は……ァ、あぁあっ、ま、また、クる……、な、なにかクる……ッ」
「……ッ、やべ……今日の神父様、メスイキ連発で……っ、超、エロいっす……」
宿に帰ると、ヴィルくんとコンラートくんは思ったより長く、そして激しくまぐわっていた。夜はもう明けているのに、元気で何よりだ。
意気揚々と部屋に入ろうとして、フラテッロ・マルティンに首根っこを掴まれる。
「時間潰してから行くわよ」
「ええー、楽しそうじゃないか。僕も混ざりたい」
「頼むから自重なさい。……後で何事も無かったフリして帰るのよ、良いわね」
マルティンは耳まで真っ赤になりながら、僕を引き摺って部屋の前から退かせる。あっ、助けて。首が絞まって苦しい。
宿の入口まで来て、マルティンは「はぁ……」とため息をついた。僕の襟首もようやく解放される。ふぅ、窒息するかと思った……。
「ストレス溜まってんのね、きっと……」
「僕も溜まっちゃったよ。股間に」
「お黙り」
キッと睨まれたけど、実際かなりムラムラしてしまって仕方がない。
コンラートくんの能力 が何かはわからないけど、鎮静作用? みたいなのがあるようには感じる。もしそうじゃなかったら、ドアを開いてすぐにでも乱入していたところだ。
吸血鬼は個人差もあるけど、大抵性器の締まりがいいし、何よりフェラチオが上手い。セックス中の吸血行為は脳が蕩けるほど気持ちいいしね。
「じゃあフラテッロ、代わりに抜いてくれるかい?」
「何が『じゃあ』なの??? 何の流れでそうなるのよ???」
「だって乱入しちゃダメって言うから……」
「そこら辺の路上であんたに抱かれろって? 絶対嫌よ」
「じゃあ新しく宿を取ってあげるから」
「これだからボンボンは……」
マルティンはやれやれと溜息をつき、それでも僕の後についてくる。
とは言っても、そんなに手持ちに余裕があるわけじゃない。そこら辺の安宿でも取って、手っ取り早く済ませようかな……。
「…………ねぇ、この宿…………」
「さぁ行こうか!」
「待ちなさい。さすがにここでするのは……んっ」
文句があるみたいだから、キスをしてみる。
……しかし、大きいな。背伸びをしなきゃ届かない。大きい身体の女の子、素敵だけどね。
「嫌かい?」
見上げて首を傾げると、彼女は真っ赤になって「もう……」と呟いた。よし、ちょろい。畳みかけよう。
「優しくするから、ね? いいだろう?」
「し、仕方ないわね。そこまで言うなら、わたしも腹を括るわ」
マルティンはどこからどう見ても人間の男性だし、はっきり言ってまったく好みじゃない。……なんて、言ったら殴られてしまうんだけど。
……だけど、彼女の想いには、答えてやりたいと感じるほどのいじらしさがある。星の数ほどいる女性の一人として扱うことしか出来ないけれど、彼女が「女性になりたい」と願うなら、付き合ってあげたい。
それに、側にいると楽しいのは事実だ。
「……こっちの眼、見せた方がいいんだったかしら」
部屋に入ると、ベッドの脇に立ったまま、マルティンは前髪を気にする。
「今日はいいよ。コンラートくんのおかげで準備できてるからあいててててなんで怒るんだい!?」
「セックスの時に他の女のおかげで勃った、なんて言うバカがいるなんてね……」
「こ、コンラートくんは男だよ?」
「…………そう言えば、そうだったわね。いや関係ないわよ。男だろうが女だろうがわたし以外におっ勃ててるのは間違いないでしょ」
「正直君にはそんなに勃たないし……」
「あんた、本当そういうところよッ!!!」
なんていつもの如くじゃれ合いながら、ベッドに押し倒す。
マルティンはぶつくさと文句を言いながらも、キスをすると大人しくなった。
「あ……」
愛撫にはそれなりに感じるようになってきたのか、熱っぽい吐息が漏れる。
「今日は声、出していいよ」
耳元で囁くと、じろりと睨まれた。他の人に聞かれたくないってことかな。そういう、ウブなところは可愛いね。
「ん……っ、うう……」
「耐えなくていいのに」
「わ……わたしの喘ぎなんか……ぁっ、あんたも聞きたくない……でしょ……?」
「別に、聞きたくないってほどじゃないよ。魅力的にも感じないだけで……あいてっ」
「一言多いのよっ!」
事実を思わず口に出してしまうのは、僕の悪い癖だ。マルティンの前だと、特にポロッと本音が出てしまいやすい気がする。一緒にいて気楽だからかな?
「じゃあ、挿れるよ」
「……良いわよ。来なさい」
無意識にか身を強ばらせるから、胸を撫でて亀頭に指を這わせる。
ぴくっと腰を跳ねさせ、マルティンはゆっくりと僕のペニスを受け入れた。
「……っ、くっ、ぅ……苦し……ふぅう……ッ」
まだセックスに慣れきっていないのか、挿入し始めは苦しそうに顔をしかめる。まあ、本来は挿れるところじゃないからね。早く膣ができてくれたら、濡れるしやりやすいんだけど。
「えーと、ここだったかな」
「んっ!? ぁ、あ……っ!」
「良かった、合ってたみたいだね」
ゆっくりと腰を動かして感じる場所を探り当て、徐々に律動を早めていく。マルティンはいつもの如く口元を抑えながら、背を丸めて快感に耐えていた。
「気持ちいいかい?」
「ぅ……っ、んんんっ! んーっ゛!」
声をかけると、涙目で睨まれる。
彼女のこういうところがイイ。特殊な能力を持っているとはいえ、ただの人間ではあるけれど、純な態度が愛らしい。
「可愛いね、ちゃんと女の子みたいだよ」
「……っ、からかわ……ない、で……! あぁあっ!」
マルティンが抗議のために口を開くと、喘ぎが漏れる。
「ごめんごめん、からかったつもりはないよ」
豊かな胸にキスを落としながら、ゆっくりと結合を深めていく。
「どうせ……っ、誰にでも……、んんっ、言うん、でしょ……!」
奥の方はまだそこまで感じないのか、眉をひそめつつ文句を言ってくる。
「もちろん言うよ。可愛い女の子にはね 」
「……最低……! あ……っ、やぁ……!」
涙目で睨まれるけれど、感じる場所に当てれば甘い嬌声が聞こえる。強気なところも可愛いね。
「そう怒らないでくれよ。君も、可愛い女の子ってことさ」
「……もう……」
頬にキスを落とすと、照れたように大人しくなる。露骨な口説き文句は気持ち悪いと言ってくるけれど、あっさり目に口説かれるのはむしろ好きなのかな。覚えておこう。
「……そろそろイッていいかい?」
「ん……っ、好きに、なさい……!」
「わかった。じゃあ、二人でイこうか」
後孔から勃ったままのペニスを引き抜き、マルティンの方のペニスと擦り合わせる。
「あっ、ちょ……! そこ握っ……ひゃぁあっ!?」
そそり立った亀頭から先走りが溢れ、ぬるぬると絡み合うのが心地いい。こういうのは男女じゃできないし、たまには男とするのもアリだね。
……まあ、身体がどうあれ、彼女は女性なのだけれど。
「や……っ、それ……男の……っ、ぁあっ!」
「大丈夫、大丈夫……っ、ん……っ、君は……っ、女の子、だよ!」
身体や外見に囚われるなんて、勿体ない。
神様だって本当はそんなこと気にしていなくて、僕たち人間が勝手に気にして、恐れて、傷つけ合っているんだ。……少なくとも、僕はそう思う。
「女の子……ほ、本当に……?」
「く……っ、本当さ。……っ、だから……怖がらずに、出して……!」
「……っ、う、あぁあーーーーっ!」
手のひらにびくびくと振動が伝わり、二人の先端から白濁液が溢れ出す。
ベッドにくたりと身を横たえ、マルティンはしばらく肩で息をしていた。
「……ちょっと、疲れたわ。先に帰ってて」
「おや? 良いのかい? まだ続いてたら混ぜてもらうつもりなんだけど」
ベッドに寝たままのマルティンと会話しながら、服を整える。
「ああ、もう……勝手になさい。……ただ、二人にちゃんと聞くのよ」
もう諦めたように、マルティンはごろりと寝返りをうつ。
「ありがとう、フラテッロ。何とか説得してみるよ」
「あんたねぇ……」
溜息をつき、彼女は静かに呟いた。
「『フラテッロ 』じゃなくて、『ソレッラ 』とは呼んでくれないのね」
人目につかない時は、修道女の服を身につけることもあるのが彼女だ。……その望みは、至極真っ当なものだろう。……だけど……
「…………。ごめん、それは……まだ、無理かな」
「なにか、事情があるの?」
「そ……そう、だね。一応は」
金の瞳が僕を見る。……前髪が乱れて、あの真っ白な義眼も見える。
「良いわ。あんたがそんな顔するくらいだもの、よっぽどでしょ。わたしだって、無理に聞き出すほど鬼じゃないわよ」
「……ありがとう。いつか、話すよ」
「そうしてちょうだい」
枕に頭を沈め、フラテッロ・マルティンはうとうとと船を漕ぎ始める。……ほとんど徹夜だからね。仕方がない。
「一つだけ……聞きたいことがあるんだ」
「何……かしら?」
「君の、妹の名前は?」
「……マルゴット……だけど……それが……?」
「いや、気になっただけさ。ありがとう」
「ええ……」
燃えるような赤毛が、懐かしい記憶を思い出させる。眠りに落ちたフラテッロ を背にし、僕は静かに安宿を後にする。
……そうかい。愛しい人 。君は、マルゴットという名前だったんだね。
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