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12月 12 ③

 朔はごそごそと、自分もズボンと下着を脱ぎ始めた。彼のものもすっかり張りつめているのが、薄闇の中でもわかる。  朔は固く熱いものを、晃嗣のものに優しく押しつけてきた。そんなことをされたのは初めてで、紛れもない快感に、身体中の毛が逆立ったような気がした。 「……気持ちいい……俺のちんちんが晃嗣さんのちんちんと、こんにちはしてる……」  朔は熱に浮かされたように口走った。きれいな形の目はとろんとしている。晃嗣は彼を心から愛おしく思った。  どうすればもっと気持ち良くなるのか、晃嗣は本能的に悟った。朔の筋肉のついた肩に腕を回し、腰を浮かせて動かしてみた。お互いの湿り気でぬるりと擦れ合い、先がぶつかり合うと背筋に電撃が走った。朔もびくりと肩を震わせた。 「あっ! こうちゃん、焦っちゃ駄目だって……ああ、でもこれやばい……」  朔は口を半開きにして、息を荒げ始めた。彼はお返しをするように、腰を動かす。熱くて弾力のあるものにぐいぐい擦られて、晃嗣の喉から勝手に音が出た。もう何が何だかわからなかったが、ただただ気持ち良くて、朔が愛おしい。 「朔さん、朔さん、好きだ……大好きだ、もっと……一緒に」  晃嗣は朔の動きに合わせながら、自分の声を遠い場所で聞いていた。朔が強く抱きしめてくれる。晃嗣は彼の肌の匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。 「朔さんの匂いも声も全部好きだ」 「ああ、晃嗣さん可愛い、俺も大好きだから一緒にいこう、一緒でないと嫌だ」 「あっ、でも一緒にいったら、たぶん凄く汚れる……」  急に気になった晃嗣は唐突に口にしたが、朔はそうか、と言いながら、枕にしていたクッションからタオルを剥ぎ取った。 「これでいつでもいけるよ晃嗣さん、もう、最初触らせてくれた時から、ちんちんまで好き」  朔は訳のわからないことを言いながら、腰の動きを早めた。互いのものが擦れ合うたびに、身体が内側からどんどん熱くなり、絶頂を感じた晃嗣は震えながら叫んだ。 「ああっ! いいっ、いくっ、あっ」  朔も腰をびくびくさせて、あっ、とひとつ声を上げた。ふとお互いの目を見て、唇を重ねる。晃嗣は朔の唇を貪りながら、熱い液体が自分の身体にぼたぼた落ちてくるのを感じた。頭の中が白濁する。今死んでも構わないと、本気で思った。  朔に抱きついたまま、晃嗣はどきどきする心臓が静まるのを待った。部屋の中に響くのは、エアコンが風を送ってくる微かな音と、自分たちの荒い呼吸音だけだ。それらが、放たれた体液の濃い匂いと共に、夜明け前の冷えた闇に溶けていく。 「晃嗣さん」  朔が低く柔らかい声で言った。 「うん、どうしたの」 「身体拭くよ、あったかいタオル絞ってくる」  二人分の精液を浴びて、晃嗣の腹はどろどろだった。少し腰を動かすと、さっき慌てて敷いたタオルに温く伝っていく。  朔は晃嗣の額に軽く口づけ、腕を解いて、下半身は裸のままで浴室に行ったようだった。  晃嗣も下半身を放り出したままで心許なかったが、朔はすぐに戻ってきた。湯気の立つ温かく柔らかなタオルで、丁寧に身体を拭いてくれる。 「昨日貰った今治タオルなんだけど、気持ち良くない?」  朔は楽しげに訊いてきた。晃嗣は頷き、伝えていなかったことがあったと思い出す。 「このタオル、俺が持ってきたんだ」 「へ? そうなの?」  朔は一瞬手を止めたが、デリヘルのスタッフらしく、手早く股間や尻のほうまで拭いてくれた。 「ごめん、最初からこんな汚れる使い方して」  晃嗣は朔の申し訳なさそうな声に、そんな、と思わず言った。 「気に入ってくれたみたいだし、それを俺のために使ってくれたのも嬉しいよ」 「ありがとう……そうか、晃嗣さんのプレゼントだったのか」  タオルを畳み握る朔の手の甲に、晃嗣は自分の手を重ねた。 「俺たち勝手に2人でプレゼント交換してたんだな」  ほんとだ、と言いながら朔は笑った。朝日が昇り始めたのか、少し部屋の中が明るくなる。朔の笑顔は穏やかで、幸せそうに晃嗣を見つめていた。それを見た晃嗣の身体の奥から、温かいものが湧き出してくる。  タオルを片づけて服を整えると、晃嗣はもう一度、朔の腕の中に収まる。もう少し、一緒に眠りたかった。朔は優しくキスをしてくれた。  朔は今日、午後から4人の客の相手をするらしく、晃嗣とずっと一緒にいられないことを詫びた。 「ちょっと残念だけど、頑張って来て」  晃嗣が言うと、朔はぽつりとこぼす。 「俺もうぶっちゃけ、晃嗣さん以外の身体に触れたくない……」 「駄目だよ、仕事なんだから……しかしクリスマスイブに朔さんを指名することができたなんて、ラッキーなお客さんたちだな」  晃嗣は朔に答えたが、彼らを羨ましいとは思わなかった。来年の春になれば、晃嗣は朔を独り占めできるからだ。恋人ごっこにつき合うデリヘルのスタッフとしてではなく、本物の恋人、パートナーとして。 「朔さんが来年の3月まで、ディレット・マルティールのさくとして働くのを俺は応援するよ、だから悔いの無いよう勤めて」  晃嗣は軽く諭す。朔は子どもみたいに頷いた。複雑な思いが無いと言えば嘘になるが、きっと彼はこれから、世話になった太客たちに挨拶して回らなくてはいけない。きちんと最後まで義理を通し、スタッフのさくを卒業してほしい。  大丈夫、待つことができる。自分だけのものになると、朔は決めてくれたのだから。彼の温かい頬に指先で触れると、熱く優しい何かが晃嗣の胸の中で膨らんだ。  俺の朔さん。晃嗣が心の中で呼びかけたのが聞こえたかのように、朔の澄んだ茶色い瞳が晃嗣を覗きこんできた。

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