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「僕は、…だが?」 幾分ウンザリしてきた。 例えるなら、秘密基地に土足で踏み入れれたような気分だった。 人見知りな僕が、これだけ他人と接すること自体、 稀な事だったし… 「ハイ…そうッスね。」 相手は僕の反応が予想通りとでも言いたげに、 少しだけ苦笑していた。 そう、僕は男。 そして、告白してきたコイツも男。 『綾兎(あやと)』と言う、若干紛らわしい名前ではあったが。どう足掻いたって僕は、正真正銘の男なのだ。 決して男に惚れられるような、キラキラした見た目でもないし。寧ろ絵に描いたような、地味で暗い容姿と性格だと…自覚さえしてるのだが。 ───と、思ったままをこの男に述べてみたのだけれど。やはりコイツは、ちょっとおかしな奴だったようで…。 「せっ先輩は、スゴくキレイな人ですっ…!!」 言って目の前の大柄な少年の頬が、更にピンクと化した。 「…良い眼科、紹介しようか?」 「うっ…そのっ、先輩は全然地味なんかじゃないし。お、オレにとってはスッゴく魅力的な人なんですって!!」 …どうやら彼はマジと書いて本気なようで。 残念ながら冗談とか、そんな軽々しい印象は全く見受けられない。 万が一これが演技だとしたならば。 間違いなく、主演男優賞モノ…だと思う。 それぐらいに。 彼の目は、真剣そのものだった。 「ありえないな…」 普段…いや、今まで他人からは言われた事のないような、なんとも甘美な言葉。 それを素直に受け取るには、心が追いつかなくて…。 体の奥の、触れられない箇所がやけにムズムズとして、 居心地が悪くなる。 真っ直ぐに僕を捕らえる彼の熱視線にも、耐え難いものがあるし…。 そこで予鈴が鳴り響き、いつの間にか空が暗いオレンジ色に変わった事に気づき。僕は迷う事無く鞄に本を放り込むと…そそくさと、彼の横を通り過ぎた。 背後から弾かれたように、少年の慌てた声が聞こえる。だがそれは無視してドアへと一目散。 「オレっ、芝崎(しばざき) 健太郎(けんたろう)です…!!」 今更…自己紹介は無いだろうと、心中で突っ込んでいたら。 「綾兎先輩のこと、絶対諦めねッスから…!!」 やけに強引で、けれどシンプルな愛情表現。 それ以前に男に男が────…って。 ならばコイツはゲイなのだろうか、と…疑問点は増すばかりだし…。 「ヘンな…まるで大きなイヌみたいなヤツだったな…。」 なら犬種は芝崎だから柴犬だろうなとか、 こんな告白はそうめったに起こるもんじゃないなとか…。 現実逃避なのか…そんなどうでもいい事ばかりが、 浮かんでしまうけど。 少しだけ鬱屈としていた、日常に。 無意識にも、確かな刺激を感じている自分がいた。 それはまるで、珍しい石でも拾ったみたいに…

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