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制服の上着だけ脱いで、ベッドに雪崩れ込む。
視線の先の鞄を見つめ、思わず目をギュッと閉じた。
すると…
ヴ─────ッ…と機械的な音に引き戻され、ぴくりと肩が揺れる。
心臓がやけに忙しない。
すぐに音が止まったから…多分メールの通知か何かが来たのだろう、が…。
仕方なくうつ伏せのまま手を伸ばし、鞄から携帯電話を取り出す。
このタイミングでメールとか…。
どうせ僕の携帯の個人メモリなんて、たかがしれてるんだ。毎日遣り取りして来るのなんて母親か、あっても友達の佐藤くらいのものだろうし…。
となれば、《《アイツ》》しか考えられない。
覚束無い手つきで画面を操作し、メッセージアプリを開く。そこには…
「芝崎…」
初めて声に名を紡げば、現実味が生まれ胸がざわめく。
下校の際、半ば強制的に交換されたアドレスと番号。
自分から送る事はまずないと思っていたが…まさかこんなに早く、向こうから届くなんて。
今別れたばかりなのに、何してるんだアイツは…
正直、気は進まないが…
そのまま操作して内容を確認していくと。
そこには、またしても歯の浮くような言葉が…綴られているのだっだ。
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『明日もまた、あの場所で待ってます。帰りも一緒だからね?ダメッて言ってもついてくから…』
『先輩ってチョーいい匂いするんだね?なんかすっげぇドキドキしちった!』
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─────…おかしいだろう、コイツ。
あんな図体してるクセに…こんな甘ったるい事を、わざわざ言ってくるだなんて。頭の中が、お花畑にでもなってるのだろうか。
返す言葉も見つからず、呆れたのもあって既読したまま暫く放置していたのだが。
それは選択ミスだったようで…
表示された文章は、更に酷いものだったから…。
『言葉も出ないくらい良かった?…先輩かなり緊張してたもんね?あんまり可愛かったからさ───…』
“キスしたいなって、思っちゃたんだよ?”
「ッ……!」
馬鹿は僕の方だった…!
コイツに常識的なモノなど一切通用しないのに。
なんだかしてやられた感が募り。
モヤモヤとしたものが、胸の奥を這いを回るみたいで…落ち着かない。
「くそっ…」
当事者は不在。仕方なく枕が犠牲となり。
思いっ切り殴ってみたものの、気分が晴れる訳も無く。
やっぱり最後は、溜め息を吐く意外は見当たらず。
空回りにも…深くそこから吐き出されるのだ。
寝不足にのし掛かる、肉体と精神の疲労。
全ては『芝崎』と言う男からの告白が原因な訳だが…。
流石に身体が限界なようで、次第に意識がうつらうつらと途切れていく。
(…洗濯、しな…きゃ…)
それから母さんのご飯に、勉強も───…
そう思いつつも、強い睡魔の波に負け…
僕はあっさりと夢の中に逃避するよう身を委ねた。
後に後悔するとも知らないで…。
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