5 / 54
4
事態はある日突然、激変する。
それは綾ちゃんが風邪で3日間休んでた次の日の事。
心配でメールしたけど、相変わらずの素っ気ない返信が一度あったきりで。
今日は来てるかな~と、昼休みと同時に急いで様子を見にやって来たんだけど…。
(あっ、あれは─────)
教室の入口前、対峙する綾ちゃんと長身の生徒は…
噂の芝崎君だ。
(なんだろう…?)
なんだかんだ良い雰囲気だったハズなのに。
その日のふたりは、ちょっと険悪なムードを醸し出していて…。
複雑な面持ちで、向かい合っていた。
『話したいコトがあるんだ…』
『知らない…』
もしかして、喧嘩でもしたのかな…?
陽気で明るそうな芝崎君も、なんだか怖い顔してるし。
何より綾ちゃんは、今にも泣きそうなくらい取り乱し…彼を拒んでいたものだから。
(あっ…!)
そんな綾ちゃんの手を、
強引に引っぱって歩き出す芝崎君。
ふたりの事は勿論、気がかりだったけど…
今は何よりも彼の方が心配だった。
(上原君…)
一部始終を見てたんだろう。
席を立ち…そのままじっと、綾ちゃんがいた場所を睨み付けている。
僕でさえ、あんな綾ちゃん初めて見たんだから。
春からずっと恋い焦がれ、日々観察していた上原君のショックは相当な大きさだろうな…。
あんなに拳を震わせて、
苦しそうに顔を歪ませているから。
僕の方が、泣いてしまいそうだ…。
────────…
こんなの、見なきゃいいのに。
わかってる、わかってるのに…
キミを追わずにはいられない。
校舎の隅、ひっそりとひとり泣いていた綾ちゃんに歩み寄る上原君。
キミが夢にまでみただろう、その隣りに腰を降ろし。
メンソールの煙を漂わせていた。
わざわざふたりの正面、木々の影に身を潜め。
雨に濡れるのも無視して。情けないくらいキミを見てる僕は。
どうかしてるよね…。
(っ…────!)
あんなに警戒していた綾ちゃんが、
上原君を受け入れ、その身を彼の胸に委ねる。
醜い心。
親友があんなに苦しんでいるのに。
僕はなんて薄情なんだろ…
あんな乱れた噂ばかりのキミは、
愛しい人へ…そんな優しい顔を見せるんだね。
けど、やっぱり辛そう。
綾ちゃんが泣いているのは、芝崎君の為だって解っているから。
手は届くのに、
触れられるのに、
余計に虚しくて仕方ないんだ。
「ふぇッ…」
僕と同じように、
向こうからひっそりと戻って来た芝崎君を認め、
綾ちゃんの黒髪に口づけする上原君。
複雑に絡まる3人の知らぬ所、
僕はひとり孤独に雨打たれ……涙を流した。
…やっぱり、見なきゃ良かった。
ともだちにシェアしよう!