6 / 54
5
side. Akihito
水島が芝崎と距離を置いてから、
俺は空席と化したその場所を…独占した。
それはヤツに対する牽制と、
弱ってるアイツに付け入る…邪な心によるもの。
今までこんな朝早くから、
自主的に学校へなんざ来たコトねぇのに。
ここまで他人に尽くせる自分が、なんだかむず痒い。
芝崎がやってきたこと、
それ以上に、水島を甘やかしてやりたい。
でなきゃ先を越された分の差は、
いつまで経っても取り戻せはしないんだろう。
むしろ、もう手遅れかも…な。
俺が傍にいる事で、
安心してる水島がいる。
俺が芝崎を真似る事で、
苦しんでる水島もいる。
俺の存在を必要としながら、
気持ちはずっと自ら去っていった男のもと。
それでも離れられないのは、
惚れた弱味…と言うヤツなんだろう。
慣れない早起きで削った睡眠時間を補うため、
授業を抜け出し屋上へ向かう。
そこは俺の庭。
誰もがそう認知しているから。
侵入者はいないハズだったのに─────…
「…高校生が授業サボってタバコとか、いいの?」
ソイツは突然、
俺の領域に足を踏み入れた。
「…あ?」
本気で咎めてる訳でもなく、
世間話するみたいに声を掛けてきたソイツを。
俺はよく知っていた。
何故ならソイツは、
俺が焦がれて止まない水島の、
唯一の親友…だったからだ。
「佐藤…?」
「あっ、名前…知っててくれたんだね。嬉しいなぁ…」
ニコニコと屈託なく笑い、
自然な流れで俺の隣りに腰を下ろした佐藤。
下の名前までは知らない。
「僕、佐藤 保 。クラスは6組だよ。」
(…んだよコイツ、絡みずれぇ…)
なんとなく、コイツが俺を警戒してたのは知っていた。水島の所へ来る度に、俺の事を気にしているようだったからだ。
水島からも、ある程度は聞いているんだろうが…。
見た目ひょろっひょろのチビだし、
どう見繕っても無害そうだったから。
特に何かするでもなく、放置しておいたが。
きっとコイツは…親友の水島をイジメていた俺が、
いきなり掌返して、つるむようになったもんだから。
探りでも入れに来たとか…そういうコトなんだろう。
「最近、綾ちゃんと仲良しだよ、ねっ…?」
ホラきた、予想通り。
隣りで体育座りして、コンクリートの地面を見つめながら、
佐藤 保はそう、切り出してきた。
「…ああ。」
正直面倒臭いと思いつつも、
水島のダチなんだからと穏便に返事する俺は、内で溜め息を吐く。
次に発せられる台詞は、きっと警告。
コイツはかなり水島に懐いていたから、ダチとして心配しているに違いない。
チビの癖に、ひとりで俺のところに来るなんて。
意外と度胸あるなとか、密かに感心していたのだか…
ともだちにシェアしよう!