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side. Akihito
保を好きかと問われたら、
俺は迷わずイエスと答えるだろう。
だが愛しているかと問われたら…それは、ノーだ。
保に依存してる俺。
水島にさえ、ここまで素の自分でいられたとは思わない。
アイツには水島に対する感情とか、カッコ悪いとこも全部バレてたから。今更だったんだろうけど…。
今の俺は、有り得ないくらい…保に気を許していた。
(これがあん時の、水島の気持ち…か。)
俺の場合…既に失恋しちまってる分には吹っ切れてるから、楽な方だろうけども。保がいなかったら、テメェの過ちにすら気付けないまま潰れてたんだろうなって…。
そう考えると、俺の中でアイツは、なくてはならない存在なんだと…
改めて思い知らされた。
(そんな顔、すんなよ…。)
俺の所為だと分かっていても、
お前がそういう顔してんのは耐えらんねぇんだ。
だから子共じみた事して、柄にもなくはしゃいだりして。アイツの気を紛らわせてやったんだ。
こんな事してやんのも、
お前にだけ…なんだからな?
無駄にテンション上げ過ぎちまって。
バテてふたり、ぼんやり海を眺めていたら…
胸糞悪いモンがやって来やがった。
いわゆる逆ナンてヤツだ。
俺は慣れてるが、女との免疫なさそうな保にはかなり刺激が強かったみてぇで。化粧臭い女が、無遠慮に俺の腕へと抱き付いてきたもんだから…
保はあからさまにヘコんでいた。
相手にしなけりゃ、そのうち諦めるだろうとシカトぶっこいてたんだが───…
全く動じねぇ俺に諦めたかと思いきや…
次には如何にも流されそうな保へと、標的を変えて。
何故だか保を俺の弟だと勘違いした女共は、
その腕へと擦り寄り、誘惑し始めやがった。
案の定、女馴れしてねぇ保は…
翻弄され押し切れないまま、オロオロし出すし。
何より男なら誰でも胸で落とせると思ってんのか、
その脂肪の塊を…保の腕にブニブニと押し付けてんのが、すっげぇムカついてきたから。
暴言吐き捨て適当にあしらって。
仕方なく保を引き連れ、その場から離れた。
マジふざけんなっての…。
おかげで悪くもねぇのに何故か保が謝ってくるし。
折角アイツが元気になって、楽しそうにしてた空気もブッ壊され、俺の気分もサイアクだしよ…。
けどそれじゃまた保が気を遣うから。
アイツの為にってソコは我慢して、なんとかイライラを鎮めたんだ。
他人に合わせるとか面倒臭くさがってた俺が、
コイツには色々してやりたいとか思っちまってる。
保とは意味が違うだろうけど、やっぱそれは“特別”なんだろうから。
自然と気が緩んで、ポロッと声に出してしまった。
“一緒にいると満たされる”
曖昧でしか伝えらんねえけど…
保にはそれだけで充分だったらしく。
照れ隠しに笑いかけたら、アイツは何を思ったのか…
とんでもない不意打ちを一発、俺に食らわして。
とっとと、逃げちまいやがった。
『大好き』
普段こそ、平静を装ってはいるが…
アイツは内気なようでいて大胆というか…
時々、こういう予測不可能な行動を起こし、
俺の心を掻き乱す。
(しかもやり逃げとか、あり得ねぇだろ…)
いくら失恋したばかりの俺でも。
ここまで分かり易いぐらいに、純粋でまっすぐな好意を向けられるのは…初めてだから。
正直、どうしていいか分からねぇ…。
(どうすんだ、俺は…)
このまま友達ごっこ…
なんて曖昧なもんは、無理な話だろう、絶対。
アイツがきっと耐えられないし。
俺だってそんなダセェことはしたくはない。
自分でも良くわかんねぇんだ。
どうしてアイツに『友達から』とか、期待させるような事を言っちまったんだろうって。
それでも、自らチャンスみたいなモノを与えてしまったからには。早いとこ、ケジメを着けなきゃなんねぇんだろう。
いい加減なモンじゃなく、ちゃんとしたコタエを。
だからそれまでは─────…
「待っててくれよ、保…」
まだ明るい夏の夕刻。
周りには人が沢山いるって言うのに。
ひとりで歩くのが、なんか寂しい…とか、
柄にもなく思ってしまった。
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