25 / 65
第25話 本当の姿
勇介がマンションの部屋の扉を開けると中は真っ暗だった。
嫌な予感がする。
まさかリスカやODをしてるんじゃ……。
勇介が慌てて電気をつけると、ベッドに横たわる涼一の姿が。
「涼一くん!」
勇介が傍に行くのと、涼一が半身を起こすのがほぼ同時だった。
「あ……せんせ、おかえりなさい……」
寝ぼけ眼の涼一がそう返事をしてきて、勇介は一気に安心し力が抜けてしまった。
「良かった……寝てたのか。何かあったのか……って、どうしたの!? その手!!」
安堵するのは早かったみたいだ。
勇介が今朝ピンクのリボンを巻いた左手……そこに新しいリスカの痕はなかったけれども、手の甲にくっきりと歯型がついて血が滲んでいる。
「なんでもない」
涼一はそんなふうに言うけれど、なんでもないはずがない。
勇介がそっと左手を取ると、涼一はびくりと体を震わせた。
「どうして、こんなになるまで噛むの? ……もしかしてリスカを我慢するために?」
「…………」
無言でそっぽを向く姿がそれを肯定している。
「涼一くん、僕は君に自分自身を傷つけて欲しくないんだよ。痛かっただろ?」
「痛くなんかないよ」
「嘘ばっかり。これからはこういうことはやめなさい。頼むから」
「やめない」
「涼一くん!!」
勇介が怒ると、涼一は再び体をびくっとさせたが、次の瞬間にはその大きな瞳で睨んで来た。
「……だって、先生が悪いんだろ……先生、俺のこと特別とか言いながら本当の自分を見せてくれないじゃないか。結婚までしたっていうのに、やっぱり俺にとっては先生は訪問看護師でしかなくて、俺は大勢いる患者の一人にすぎないじゃないか!!」
涼一の言葉に勇介は二の句が継げなかった。
まさかそんなふうに思っていたなんて……でも確かにそういう面が全くなかったとは言えない。
言葉遣いも態度も俺は涼一に対して薄いべールを被って接していたから。
だって壊してしまいそうだったから。
「涼一くん……」
「こんな俺、先生だって嫌いだろ? いいよ、もう離婚しても。結局俺は独りなんだから」
強がる涼一に勇介のベールがするすると取れて行く。
「涼一くん……涼一」
「え?」
「そんなに本当の俺がみたい? 俺は結構エゴの塊だよ。独占欲も強いしね。そんな俺でもいいなら見せてあげる」
「せんせ……んっ」
勇介は強引に涼一の唇を奪った。
「『先生』じゃなくて『勇介』だ」
「な、何……?」
いきなりのキスに戸惑っている涼一に勇介は言ってのける。
「君が望んだことだろ。俺の本音を知りたいんだろ?」
そうして勇介はもう一度涼一に口づけるとその口内に舌を差し入れた。
ともだちにシェアしよう!