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第24話 夫と新妻
SIDE.YUUSUKE
「ねぇ、谷川さん、今度一緒に飲みに行きましょうよ」
この日最後の患者の人妻がその豊満な体を勇介の体に摺り寄せるようにして誘ってくる。
「……すいませんが、患者さんと仕事以外で会うのは禁じられていますから」
勇介はやんわりと体を押し返すと踵を返して足早に立ち去った。
ったく。旦那のぐちばっかり言ってなかなか帰らせてもらえないから、こんなに遅い時間になってしまった。
腕時計を見るともう夜の八時半を回っている。
涼一くん、怒っているだろうか。お腹すかせてるだろうな。
まさかリスカやODしてないだろうな。
心配でたまらない。
今日は朝会社に寄っていたこともあり、予定がびっしり詰まり途中で電話をかける暇さえなかった。
マンションへと帰る道にある美味しいと評判のケーキ屋さんでショートケーキを何個か買い求める。
ケーキ屋さんの出入り口のウインドウに映った自分の姿はどこか浮き浮きしているように見え、これじゃ本当甘々な新婚家庭の夫のようだ。
政略結婚をしたのは涼一を以前いた部屋から連れ出すためだった。
どうして涼一にそこまでしたいと思ったのかは本当は自分でもよく分からない。
俺とよく似た孤独を抱える涼一を、あの広く豪華だけどどこまでも寂しく冷たい場所から自由にしてあげたかったのだけは確かだけど。
……でも涼一くんは多分心の病が癒えたら、きっと俺の傍からいなくなるだろう。
そのことを考えると何故か勇介の胸は少し痛んだ。
もう勇介の会社も涼一の会社も二人が結婚することで充分の利益を得ている。これからもどんどん二つの会社は発展し続けるだろう。
勇介の養子という形で涼一が籍に入っている限り。
だから涼一はある意味いつまでも勇介の『妻』であり続ける。
決して二人の絆が切れることはない。例え涼一が傍にいなくなっても。
「……まあ、まだそこまで考えることはないか……」
一人呟く勇介。
今は愛情に飢えている涼一をたっぷり甘やかしてやりたい。
勇介はケーキを持つ手に力を込めた。
本当に癒されているのは俺の方かもしれないな。
そんなことを考えながら足早に新妻が待つマンションへと歩を進めた。
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