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第23話 変化
涼一はやがて気を取り直して立ち上がると、勇介が用意してくれていたスエットの上下に着替える。
スエットには大きなウサギが上にも下にも印刷されている。
……パジャマは猫でスエットはウサギかよ。先生、どこまで俺を子ども扱いする気なんだよ……。
少々憤慨する。
別に監禁されているわけではないので、鍵も預かっているし、近所のコンビニに行って買い物とかしてきていいよと少しばかりのお金も貰っている。
『ただし刃物や薬は絶対に買わないように』ときつく言われてはいたが。
それ以前にこんな派手なウサギのスエット姿で涼一は外に行く気にはなれない。
いつもの自分ならこんな時間は寝ているのだが、昨夜熟睡したせいでちっとも眠くない。
仕方ないのでスマホでゲームをして午前中の時間を潰した。
気が付けば昼をとっくに回っていたが食欲はない。
涼一はスマホを放り出すとベッドに寝転んだ。勇介の言葉が思い出される。
『食欲がなくてもご飯はきちんと食べること』
涼一はのろのろと起き上がり、ダイニングへ向かった。テーブルの上には勇介の手作りのチャーハン(冷凍ではない)が乗っている。傍に小さなメモが置いてあり、『レンジで温めて食べてね』と、達筆な字で書かれていた。
……食欲ないけど、食べなきゃダメかな。ダメだろうな。食べなきゃ怒られるかな……いや、怒られるのは別に平気なのだ。先生の優し気なイケメンが悲しそうになるのが辛い。
温めるのは面倒だったのでそのままラップを取り、スプーンで口に運ぶ。
勇介が作ったチャーハンはとても美味しかった。
「マジ? 先生、料理上手じゃん。これ店に出しても売れるよ、きっと」
そんな言葉が自然に口を突いてでる。
ご飯やパン作りと言い、そのきめ細やかな気配りといい、どちらかというと先生の方が奥さんに向いていると涼一は思った。
先生、今頃訪問看護師の仕事へ行ってるのかな?
昨日、涼一は勇介に訪問看護師の仕事を辞めないで欲しいと懇願した。あの気持ちは嘘じゃない。勇介ほど看護師の仕事に向いてる人はいないと感じたからだ。
誠心誠意患者に寄り添ってくれる先生……。先生によって救われる人はきっと多いだろうと思うし。
けれども何故か今、涼一は訳の分からない胸のモヤモヤを感じていた。
先生は他の患者さんにも俺にするように優しく笑いかけ、話に耳を傾ける。
そのことになんだかモヤモヤした。
先生には訪問看護師の仕事はしていて欲しいけど、俺だけの看護師でいて欲しい……?
「マジかよ? 俺、これって」
やきもち?
独占欲?
自分で自分の気持ちに愕然とする。
リスカ欲求が急に高まって来た。けれども左手首には勇介が巻いたリボン。
しかたなく涼一は自分の手の甲を思い切り噛むことでリスカやODの誘惑から逃げたのだった。
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