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第22話 どうして?
食事を終えると勇介は食器を洗い、身支度を整える。
今日はスーツ姿だ。
「ちょっと朝、会社の方へ寄ってから、訪問の仕事へ行くから。……帰りはそんなに遅くならないと思うけど。良い子で待っていてね」
また子ども扱いして……と涼一は腹立たしく感じながらも、勇介が仕事へ行ってしまい自分一人が残されることになぜかすごく寂しさと不安を覚えた。
なんで? 今まではずっと一人で広い部屋に閉じこもっていたのに。先生が仕事へ行くってだけで、こんな気持ちになるんだろう?
「涼一くん、そんな顔しないで。仕事へ行けなくなっちゃうだろ。帰りにケーキ買って来てあげるから」
「いらない。だいいち俺は一人でいるのなんか慣れてるから」
「じゃどうして、そんな不安そうな顔してるの?」
「そんな顔なんかしてないっていうか、先生こそ不安そうな顔してんじゃん」
「不安だよ、僕は。君が一人になったらまたリスカとかODするんじゃないかって」
「……しないよ。だいいちリスカやODできる状態にないじゃないか、この部屋は」
刃物も薬もないんだし。
それでも勇介はまだ不安そうな顔をしていたが、不意に何かを思いついたような表情になると傍に会った引き出しの中からピンクのリボンを取り出した。
「左手出して」
勇介は言うと涼一の左手首――リスカの痕だらけの――にそのリボンを巻き付けた。
「リスカの誘惑が来たら、このリボンを見て僕のことを思い出してやめて欲しい」
「こ、こんなの巻かなくてもリスカしないーー」
「じゃ行ってきます」
ちゅ。
勇介は涼一の言葉をみなまで言わさず、おまけに素早く頬にキスまでして出かけて行ってしまった。
扉がぱたんと閉まると涼一はその場にへなへなと座り込んでしまう。
いったい何を考えてるんだよ! 先生って。
マジ政略結婚なのにこんな甘くていいのかよ!!
頭を抱えて考え込む。
そんな涼一をからかうように左手に巻かれたピンクのリボンが顔の横でひらひらと揺れていた。
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