21 / 65
第21話 選ばれた理由
……先生って、こんな無防備な子供っぽい笑顔を見せることもあるんだ……。
こんなのほんとに女の人にモテる要素しかないじゃないか。
なのに。
「……ねー先生」
「ん?」
「どうして、俺と結婚しようと思ったわけ? 先生なら男の俺なんかじゃなくても、たくさん女の人の相手がいたでしょ?」
涼一が聞くと、勇介はトマトをフォークで刺しながら答える。
「そうだね、あからさまに俺の立場に喰いついて来る女性はやだったし、純粋に俺のことを好きになってくれた相手は俺の立場を知ったら、どうしてかみんな離れて行くんだよ」
「そう、なんだ」
「それにね、君は僕と似てるから」
「似てる? 俺と先生が?」
「うん。孤独ってところがね」
「そんなの! 俺はともかく先生は孤独なんかじゃないじゃん! きっと友達だってたくさんいるだろうし、女の人だってきっとみんな先生が好きだし。……それに両親だって先生のことちゃんと認めてくれてるんだろ?」
涼一が自分とは違うと反発すると、勇介は呟いた。
「ずっと深い部分で孤独なんだよ」
そのときの表情があまりにも寂しそうで、涼一は言ったばかりの言葉に罪悪感を覚える。
それをごまかすように慌ててとりなす。
「ま、まあ。人間はみんな孤独な生き物だからな」
すると勇介は楽しそうな表情に戻り、
「涼一くん、哲学的なこと言うね。意外」
「うるさい。馬鹿にするな」
「別に馬鹿にしてないよ。……それとね、結婚相手に君を選んだのは他にも理由があるよ?」
「何!?」
「可愛いから」
「へ?」
「涼一くん。可愛いからさ」
甘い笑顔で言われて涼一は取り乱す。
「だっ、だから、そんな可愛いとか、女の子や子供に向かって言うようなこと言うな!!」
「だって、ほんとに君は可愛いから」
勇介は重ねて言うと、手を伸ばしてきて、涼一の口元についていたパン屑を取り、それを自分の口に運んだ。
「~~~~」
なっ、なんだ!? このバカップルか新婚夫婦みたいな……いや、実際新婚夫婦なんだけど。でも……。
顔が熱くなりまた真っ赤になる涼一とクスクス笑う勇介。
その光景は第三者が見たらまさしく新婚のそれのようだろう。
涼一は複雑な気持ちだった。
政略結婚のはずなのに……なんで、こんな甘ったるいんだよ?
ともだちにシェアしよう!