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第20話 二人の食卓
言われた通り洗面をすまし、猫柄のパジャマ姿のままベッドに腰かけ、勇介が料理をするさまを見物する。
細く長い指が器用に野菜を切り、目玉焼きを作り、みるみるうちに出来上がっていく。
昨夜も思ったけど魔法のようだった。
両親は涼一に料理を作ってくれたことなどなく、家政婦が作っているところも見たことない。
勿論自身も料理などまともにしたことないから、器用に作る勇介をマジですごいと思った。
……そういえば料理ができる男はモテるっていうけど。その上にあの顔とスタイルだ。黙っていても女の人が放っておかないだろう。
なのに、男の俺と結婚って……いくら互いの会社の利益がぴったり合った政略結婚とはいえ、やはり不自然だ。
なんだか色々考えていると、リスカ願望が沸き上がって来た。
でも、ここへ来るときに刃物は全て取り上げられたし、周りにもリスカできそうなものはない。
だったらOD。
と思い、持ってきたリュックを漁ったが、薬も全てなくなっていた。
う~~。
「何してるんだい? 涼一くん?」
いきなり上から声をかけられてびっくりする。
「な、なんでもない」
勇介は切れ長の目でしばらく涼一のことを見つめていたが、やがていつものように優しく微笑んで、
「朝ごはんできたよ。こっちへおいで」
手を差し出して来た。
まるでお姫様を相手にする王子のような仕草に、涼一は照れくさくて、その手をはたくと一人でさっさとキッチンへと向かった。
キッチンのテーブルの上には美味しそうな料理が並んでいる。
ハムエッグとサラダ、バタートーストにロールパン。はちみつをかけたヨーグルト。
「こんなに食べられな――」
と言いかけたとき、ぐぅうと涼一のお腹が空腹を訴えた。
勇介はにっこりと笑ってからテーブルの椅子を引いて座るように促してくれた。
「どうぞ」
「……そんなふうなの、やめろよな」
「え?」
「だから、俺のこと女の子みたいに扱うことだよ。椅子ぐらい自分で座れる」
「うーん。でも君は僕の奥さんだからね。大切にしたいんだよ」
端整な顔でそんなことをサラッと言ってのける勇介に、不覚にもちょっぴり本当にちょっぴりだけど胸がトクンとした。
男の俺でさえちょっぴりときめくんだから、女の子ならいちころなんだろな。
「……先生って自覚ないようだけど、結構魔性だよね」
「魔性? ちょっと何言ってるか分かんないんだけど。それより早く食べよ。冷めちゃうから」
二人は向かい合って食事を始める。
涼一はまずロールパンに手を伸ばし、かぶりついたのだけど、これが感動するくらい美味しい。
「何これ? めっちゃ美味しいんだけど」
「ありがとう。それ、僕が焼いたんだよ。そっちの食パンもね」
「えっ?」
「パン作り、趣味でね」
「すごいすごいすごい」
珍しく涼一が素直に感動を現すと、勇介は本当に嬉しそうに笑った。
その笑顔を見て、まるで砂糖菓子のように甘い笑みだと涼一は思った。
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