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第65話そして、二人の永遠

 涼一は勇介に抱きあげられて駐車場までやって来た。  まるで壊れ物を扱うように優しく勇介が涼一を助手席に乗せてくれる。  勇介がエンジンをかけ、車を出す。 「ここは、いったい何処なの?」  涼一が聞くと、勇介は自分たちが住んでた街から遠く離れた県の名前を答えた。 「これから何処へ行くの?」 「だから、行くんじゃなくて帰るんだよ、俺たちの自宅へ」 「自宅? ってどこ?」 「もう忘れたのかい? 俺たちが住んでいたマンションだよ」 「えっ?」  涼一は純粋に驚いた。谷川の社長になったからにはタワマンとかに引っ越してるとばかり思ったからだ。  そのことを勇介に言うと、彼は笑って言う。 「タワマンは無理だな、俺の給料じゃ」 「え? だって、社長になったんじゃ……」 「ああ、今はね。でも今やってる仕事が片付いたら、すぐに従兄弟に社長の地位は譲るよ。俺なんかよりよほど会社経営に向いている。俺がいっときだけでも社長に就任したのは、涼一の居場所を聞き出すためだ」 「じゃ、じゃあ祐実っていう女と婚約したっていうのは……」  勇介の顔が苦々しいものに変わる。 「そんな事実はないよ。誰だよ、そんなこと言ったの」 「……良かった」  安堵した涼一は力が抜け助手席の背もたれに体を預けた。  勇介は涼一の髪を優しく撫でながら、言う。 「もう少し俺を信じて? 俺の愛する妻は涼一、君だけなんだから」 「勇介さん……」  車が止まる、信号待ちのその短いひとときに、勇介と涼一は誓いのキスを交わしたのだった。 SIDE.YUUSUKE・RYOUICHI  数週間後、勇介は従兄弟に社長の座を譲った。  そして、訪問看護師の仕事へと復帰した。 「勇介さん、早く早く!」 「そんなに急がなくても、予約してあるから逃げやしないよ、涼一」  この日は勇介が訪問看護師の仕事に復帰したお祝いに、二人でホテルのレストランでディナーの予定だ。  勇介の手を引っ張り急かす涼一に苦笑する。 「だって、ずっと楽しみにしてたんだもん。……でもさ、あのホテルのレストランって超おいしいけど、超高いってネットで読んだよ? 大丈夫なの? 勇介さん」  すると勇介は涼一の頭を優しく撫でてくれる。 「涼一はいい妻だね。家計の心配までしてくれるんだから。でも大丈夫。たまにはね」 「うん……ありがとう」  涼一の方はまだしばらく大学は休学して、ゆっくり進路を決めることに落ち着いた。 「俺としては涼一と一緒に作る料理よりおいしいものはないけどね」 「でも、まだまだ卵割るとき、殻が入ってしまうけどね」  二人は仲良く会話しながら、人混みの中を歩く。  肩を寄せ合い歩く勇介と涼一の姿は男同士であることと、その容姿端麗さゆえかなり目立っている。  しかし二人には人目などどうでも良かった。  勇介が涼一の手を握り、指と指を絡める。  二人の指にはお揃いの結婚指輪が光っていた――――。                             了  

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