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4.誰かの二番目じゃいられない

 秋風の心地いい今日は、夢目乃 朝五の人生が二十一年目を迎えた日だ。  大学の近くのカフェテリアにて。  淹れたてのカフェロシアンに口を付けて、朝五は深くため息を吐き、目の前の恋人をじっとりと呆れた視線で嬲る。 「確かに俺はバカだけども、これはない」  断言すると、恋人は見るからに肩が丸くなった。顔には出ないものの申し訳なく思っているらしい。  しかし素直に謝らないところを見るに、なにが悪いのかは理解していないのだろう。一般常識はあるものの対人スキルが壊滅的なところが、彼の重大な欠点なのだ。 「ノートの柄が気に食わなかった?」  朝五の恋人──夜鳥 成太が大きな背を縮めてそう言うと、朝五は眼光を鋭くし、夜鳥の頭にそれなりの強さのチョップを見舞った。 「痛いよ、朝五」 「だまらっしゃい! 誕プレとはいえ、講義のノート全部プレゼントはヤベェわ! 俺の頭に入ってねーじゃん! お前の努力でいい点取っても意味ねーじゃん!」 「あ……そっか。ごめん」  ギャンと唸った朝五の言葉で夜鳥はようやく納得し、こっくりと謝る。  そもそも恋人への誕生日プレゼントがノートの束というのもミステイクだが、それはこの際目を瞑った。  本人が言うには、朝五が毎度テストに苦労しているので手助けをしたかったらしい。それならば勉強を教えてくれるほうが助かると伝える。  夜鳥はぼんやりしているが頭がいい。  教授の講義が子守唄に聞こえる朝五の家庭教師になってもらえるなら、これ以上ないくらいの手助けである。 「それじゃあ、別のプレゼントを考える」  疲労からカップの中身を空にする朝五を前に、夜鳥は朝五に渡した紙袋を回収しようと手を伸ばした。──が。 「まぁ待ちなボーイ」 「ん?」  朝五はサッとその手を躱す。夜鳥がキョトンと首を傾げた。  文句を言われたのに確保される理由がわからないようだ。矛盾していることは自分でもわかっている。  けれど、よくないからと言って返品するわけじゃない。 「あれよ、これは貰っておくから別のは考えなくていいってことよ。このノートの続きは自分で書くけど。せっかく書いてくれたみてぇだし? 資源がもったいねーし?」  唇を尖らせてもごもごと弁明する。  要するに〝恋人からの贈り物自体は嬉しかったのでありがたく頂きます〟ということだ。  朝五がそう言って紙袋を抱きしめると、夜鳥は数度瞬きを繰り返し、相変わらずの薄い微笑みを浮かべた。 「朝五の欠点は格好つけるところだけど……そうやって受け取ってもらえると、欠点だって好きになるくらい嬉しいな」  はにかむ夜鳥のセリフは、いつも朝五を耳まで紅葉させる。  秋にのぼせた自分の負け。  素直に受け取れない見栄っ張りを素敵に解釈する夜鳥の世間ズレが、朝五とて好ましいと感じているのだ。  欠点が見つからない恋人同士も素晴らしいけれど、欠点をかわいがれる恋人同士も悪くない。

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