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40【完】

 もういいと許した朝五は火照った頬に手を当て、テーブルに肘をついた。 「映画の時間、いつだっけ?」 「十一時半からだよ。ランチタイムに映画を見ると、終わった頃にちょうどありつける。ディナーの予約は遅めの時間だから」 「天才現る。それもネットの情報?」 「バイト先の先輩。この間朝五も会った」 「お! あの人な〜! 工事現場の人ら、すっげぇノリ良くてマジオール善良兄貴。あと教えてくれるラーメン屋ハズレねぇの地味にヤベェ。ちな今度俺のバイト先の居酒屋くるってよ。夜鳥もおこしやす」 「うん、行く。……朝五、先輩たちと仲良くなるの早すぎない? 俺は半年くらい前にやっと馴染んだのに」 「? 普通じゃね? ってか人それぞれペースがあんだから、俺と比べねーの。したら俺頭悪いの嘆かなきゃなんなくなるっしょ」  あっけらかんと笑いかければ、夜鳥は神妙に頷いて微笑み朝五を褒めそやす。  惚れたら負けだという躊躇なんてない夜鳥のともすれば気障な言葉に、朝五はとろ火で炙られ緩みそうな口元を尖らせる。  他愛のないいつも通りのやり取りは、共に過ごす時間を重ねて作り上げた日常だ。  一番好きな人の一番好きな人として寄り添い合うひとひらの繰り返しを抱きしめる。  自然と惹かれ、朝五はテーブルに乗った夜鳥の人差し指を不意に握った。 「っ……」  ピク、と跳ねる手。  夜鳥が戸惑い、朝五の反応を求めた。  この行動の答えを待つ夜鳥が逃げないよう柔らかく手のひらと指で包み込み、渾身の上目遣いで伺う。 「今日のバースデーデートも、一人で予行練習してたりすんのかね」 「してない、かな。……怠慢だと思う?」 「いんや? 俺といっぱい練習したいのかなって思う。まあ、その、願望込みだけどさ」  余裕ぶって誘いをかけると、夜鳥は数秒を置いて、仄かに紅潮する。 「だって、そういうのは朝五としたい」  ささめくような白状は、朝五にとって朗報だった。  自分だけその気になっていやしないかとありもしない不安を想像する悪い癖は、なかなか抜けない。  夜鳥はそこまで見抜いて、今夜の結末を描き期待した。  涼しい顔する夜鳥に、朝五の刷り込みはじっくりと効果を出しているようだ。上目遣いだって夜鳥には会心の一撃になる。  歓喜に頬がへらへらと崩れそうになり、朝五は甘い声で囁く。 「俺も、お前としてーよ。だってお前が、俺の一番愛する人だかんね」  誰かの二番目じゃいられない。  ──お前の一番でいたいから。  夜鳥は甘く破顔し、愛しげに唇を開いた。  完 (あとがき→)

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