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第1話

 (めい)は小さいころから掴みどころのない子供だった。  一緒に外で遊んでいると興味があっちこっちに移って、いつの間にか蝶々やトンボを追いかけて俺の前から姿を消した。かといって痺れを切らして明を置いて他の友達の所へ行こうとすると、どこからともなく俺の前に現れた。俺が勝手にいなくなった明に苛立っていると、決まって大きな瞳を涙で潤ませて「じん、おいていかないで」と引き留めてくるのだ。 「おいていったのは明だろ」  俺がそう言うと明は頭を横にふるふると振った。彼の天真爛漫さを体現したかのようなふわふわの髪の毛が一緒に揺れる。 「もうしないから」  明はいつもそう言って赤くなった眦を擦りながら俺の服の裾をぎゅう、と掴んできた。結局その言葉が守られたことは一度としてなかったが、明がこうやって縋り付いてくる事に悪い気分はしなかった。  ――今、この子供の世界には自分しかいない。  明と同い年のくせに幼少期から変にませていた俺は、よくそんなことを思って優越感で胸を一杯にしていた。  今思えば、既にその頃から俺は明に対する歪んだ執着心を抱いていたのだ。

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