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第2話

 都心から遠く離れた田舎とも呼べる郊外で育った俺たちは当たり前のように小学校、中学校、高校を共に過ごした。  家が隣同士で同い年。一般的には幼馴染と呼ばれる二人の関係は変わることなく、常に隣にお互いがいる事が当たり前だった――…と、少なくとも俺は思っていた。  俺が明の変化を感じ始めたのは中学生の頃からだった。  最初は彼の髪型だった。  全体的に色素の薄い明は髪の毛の色が明るく、瞳の色も透き通ったヘーゼル色をしていた。小学生時代にはその瞳の色をからかう男子が多く、明はいつも目の下ぐらいまで前髪を伸ばしてその目元を隠していたのだ。  しかしある日突然その前髪を切ったばかりか分け目も真ん中から横分けに変え、瞳の色を惜しむことなく大衆の下に晒した。  そのイメージチェンジはクラスメイトには概ね好評だったようだ。生来の顔立ちの良さもあって一時期は明に告白する女子生徒が爆発的に増加した。  次は友人関係。  明はいつのころからか俺の知らない友人とつるむことが多くなった。  放課後、学校でだらだらと二人で話していると明のスマホが鳴って、自分を差し置いてにこやかに通話する場面に何度も遭遇した。聞けば通っている塾で出来た校区の違う友人だという。  俺はその時スマホを持っていなかったが、習い事をいくつか掛け持ちしていて帰りの遅くなる明を心配した彼の両親がスマホを持たせたのだそうだ。  きっと明のスマホのアドレス帳には俺の知らない人間の連絡先が何人も登録されているのだろう。そして自分と一緒にいない時はこうして仲良さげに電話をしたり、くだらないラインを送りあったりしている筈だ。  そんな事を思えば思うほどなぜか腹が立ってきて、何度そのスマホの画面を叩き割ってやろうと思ったことか。  これらのエピソードはほんの一部に過ぎず、それ以外にも明が俺の知らない一面を垣間見せる瞬間を幾度となく目撃してきた。  俺には見せない顔で誰かに笑いかけたり、俺には見せないような態度で他人に接する明を見て、俺の心の中には少しずつ黒い(おり)が溜まっていった。  ――明が段々と俺の知らない「」になっていく。  それは彼が大人になっていく過程を着実に踏んでいる証拠でもあった。  本来であればその姿に敬意を払って自分も手本にするべきなのかもしれないが、俺にはどうしてもそうする事が出来なかった。

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