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第10話

「あっ、あっ……臣……じっ、ん…うぅ……」 明は時折俺の名前を呼びながら嗚咽と切なげな喘ぎを漏らしていた。彼の声色の変化を聞くに、どうやら俺が与えている刺激が「苦痛」から「快感」に変換されてきたらしい。先ほどまでとは明らかに違う艶を帯びたその嬌声に、俺の昂ぶりがさらに(かさ)を増していく。  俺は身をかがめて明に覆いかぶさるように四つん這いになると、交尾をする獣雄のように腰の動きをどんどん早めていった。俺の腰が明の臀部にぶつかるたびにぱちゅ、ぱちゅ、と粘着質な水音が響く。ずるりと腰を引けばローションと体液の混ざった粘液が糸を引いて、俺の茂みにまでまとわりついてきた。 「ひぅ――…! う、んんッ……っ……」  その蜜のような粘液を明のナカに再び押し込めるように腰を打ち付けてやると、明の唇から蕩けたような甘い悲鳴が漏れて、明の柔襞が歓喜したように俺の楔に纏わりついてきた。  胎内の熱烈な歓迎に反して、明の身体は俺の律動に合わせて力なく揺さぶられていた。  俺はぼんやりと濁った明の瞳を覗き込む。明は見られている事にも気づかないのか焦点合わない瞳が俺の背後に広がる虚空を見つめていた。  それが妙に苛ついて、先走りを滲ませながらびくびくと震えている明のペニスを握りこむ。 「明」 「うぅ…っ、じ、ん……っ」  明のペニスを上下に扱いてやると、明の瞳にようやくぼやけた光が灯る。 「――俺を見ろよ、明」  低く唸るように漏れたその声は今度こそ明の耳に届いたらしい。涙で潤んだ目を何度か瞬かせて、俺を見上げてきた。 「はっ…ぁ……臣……?」 「なあ、俺には明しかいないんだよ。わかれよ」  俺は腰の動きを止めて、喉元までこみ上げるものを必死に堪えながら明に吐き捨てた。    明は気まぐれな猫のように俺の懐に潜り込んだかと思えば、少しでも目を離すとたちまちどこかへと消えてしまう。どんなに強く言い聞かせても、離れないように手を掴んでいても、するりと俺の手から抜けて彼は俺の知らない世界へと旅立っていく。  ――俺がどんな思いで彼の背中を見つめているかも知らずに。 「ふらふらどっか行くなよ、知らない奴と仲良くすんなっ、勝手に女とやるんじゃねぇ…!!」  それが一介の友人にしてはあまりにも過ぎた束縛だとは理解していたし、俺の言葉が明には何の枷にならないことだって分かり切っていた。  それでも俺の知らない「明」になり続ける彼を、俺はどうしても認めることができなった。 「お願いだから、俺を置いていかないでくれ…っ!!」  目を背け続けていた事実に、ようやく向き合わされた。  ――子供の頃、よく明を置いていこうとした俺は、いつの間にか彼に「置いていかれる」側になっていたのだ。  視界がじわりと滲んできて、堪らずに瞬きをすると明の頬にぽたりと一滴の雫が落ちた。 「じ…ん…っ」  明は感極まったように顔を歪める。眦が赤らんだその顔は、幼いころに見たあの表情によく似ていた。 「臣、手……ほどいて……逃げない、から」  明はゆっくり瞬きをしながら小さく、けれどまっすぐな意思を持った声で俺に哀願した。明の瞳を見れば、ぐしゃぐしゃに顔を歪ませた俺が映っていた。  俺は明の要求どおり、彼の身体の角度を少し変えてその手首からベルトをはずしてやった。抵抗した時に付いたのだろう、赤く締め付けられた跡が筋となって何本か残っている。 「臣……」  自由になった手で何をするのかと思えば、明は俺の背中にゆっくりと腕を回してきた。

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