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Growing up ②
明日からは新年になるので、国全体が祭りとなる。毎年、リーラと双子とで、祭りで盛り上がる街に行くことにしている。リーラはそれを楽しみにしていた。
「あー…気が重い…」
馬に乗りながらランディは頭を抱えている。
「もう!ランディ!そんなに項垂れてないで。せっかくなんだから楽しもうよ」
「そうだよ。リーラは帰ってこないんでしょ?ランディだってひとりだと寂しいじゃん。僕たちが今夜は付き合うからさ」
夜になるのを待ち、それぞれが馬に乗り、5人で街まで行くことになった。双子は上手に馬を扱い、乗ることにも慣れてきていた。
馬を扱えるようになると、いつか黙って遠出をしてしまうかもなと、自分がやってきたことを思い出し、少し心配になる。思春期の子を持つと、悩みはたくさん湧いてくるもんだと、ランディは実感していた。
ランディは頭を抱えているが、双子はワクワクとしている。
「酒は絶対飲むなよ!飲んだら許さねえからな。それと、女の子と途中で消えたりするな!レオンとクリオスも一緒に行動してくれ、それから、」
些細なことを言い出したらきりがない。しかし、ランディの小言は止まらない。
「「はいはい。もうわかったって…」」
「お前ら絶対わかっていない!」
双子に軽くあしらわれて、ランディは馬の上で大声を出している。
子供の成長は喜ばしいが、大人になる途中、青年期の扱い方は難しい。自分もこうだったな、嫌、もっと酷かったかとランディはまた思い返し苦笑いをする。
街に到着すると前夜祭で賑やかになっていた。今年は果物も野菜も豊作であった。国民も豊かな祭りが開催出来て嬉しそうである。
「ネロ!こっち!」
「待ってたわ、アル!」
到着して早々に女の子達から双子に声がかかっていた。同じ年くらいの女の子達なので、今通っている学院で一緒なんだろうと思い眺めていた。
二人が女の子達と楽しげに話しをしている声が聞こえる。女の子達が着ている服や髪型を褒めたりしているのを見て、ランディは面食らい唖然としている。二人の成長をまた改めて感じた。
クリオスとレオンは双子と少し離れた所で酒を飲み始めている。微妙な距離を築き見守ってくれているようだ。
「ランディ、久しぶりだな」
後ろから声がかかった。昔からよく連んでいる仲間達がそこにはいた。ランディが国王になった時やその後も色々と手助けしてくれていた男友達だ。
「おう!久しぶりだな。みんな、元気だったか?」
久しぶりの人達との会話に花が咲く。みんなそれなりに年をとったなと笑い合う。それぞれが、産まれたてから成人まで幅広い年代の子を持つ親になっていた。
「ランディはどうだ?相変わらず王妃と上手くいってるか?結婚した時は驚いたよ」
「俺か?俺は今も王妃に夢中だよ。毎日一緒にいたいし、たまんなく可愛いし…いつになっても変わらないな」
あははと大声でみんな笑っている。仲がいいなという声が上がっていた。
「息子達はどうなんだよ。ほら双子の」
「えっ?あ、ネロとアルか?実は今日一緒に来てて…あそこで女の子と喋ってる。もうすっかり大人だよ」
俺の息子もあそこにいるぞなど、皆口々に自分の子供の話になっていった。男親はみんなそれぞれ悩みはあるようだった。
「うちは女の子だからさ、パパとは話しないって言って…寂しいよ」
「うちの息子はケンカばっかりしてる。騎士団に入って根性叩き直してもらいたい」
なるほどと、ランディは皆の話を頷きながら聞いていた。とても興味深い。だがよく聞くと、どこも同じような悩みを抱えていて、そして親たちは子供を見守ってるんだなというのがわかる。
「うちはなぁ…リーラに心配かけなけりゃいいんだけどなぁ」
ランディは頬杖をつき、双子を遠くから眺めていた。
「なんだ?」
突然周りが騒々しくなっていた。人々の叫び声と荷馬車から物が崩れる音、皿が割れる音などが入り乱れている。
ランディは立ち上がりレオンとクリオスを呼び、騒ぎの元を突き止めるように指示を出す。
「どうした?この騒ぎは」
「猿が暴れているらしいです」
「猿?」
前夜祭という場所には食べ物がたくさんあり、いい匂いがところ構わずしている。その匂いに誘われて、猿達は街まで降りて来てしまったようだ。果物や屋台の食べ物、飲み物を猿達は盗んでいるようだった。
皆で捕まえようとしたが、網にも罠にもするっとすり抜けて逃げてしまうため、中々捕まえられない。なので街中にガシャンガシャンと物が倒れ、壊れる音が響き渡っている。
「猿は何匹いる?」
「5、いや6匹ですかね。ほら、あそこ走ってます」
クリオスとレオンも困っているようだ。こなままだと街中がめちゃくちゃになり、明日の祭り本番が台無しになってしまう。
「わかった。ネロ!アル!こっちこい!」
見るとネロもアルも驚き、動きが固まっているようだった。ランディはネロとアルを呼び寄せ、全員に指示を出す。
「いいか、猿は6匹。ネロはこの樽に入ってる酒を『水のボール』にしろ。アルは風を使いそれを猿めがけて投げろ。そしたらそのまま水のボールの中に猿を閉じ込めて動けないようにしろ。出来るか?」
「「はい!」」
ネロとアルは頼もしい返事をしてくれた。
「よし。じゃあ、レオン!樽をここに集めてくれ。クリオスは女性達を安全な場所に誘導してくれ。残りの男らは、それぞれ手伝ってくれよ!それから、ネロ、アル。水のボールで閉じ込める時には、猿の顔は外に出しといてやれ。かわいそうだからな」
よし、やるか!とランディの掛け声でそれぞれが配置につき猿を捕獲する計画を実施した。
しかし『水のボール』を投げるが相手は野生動物、動きが素早くて中々捕まえられない。
水のボールも酒を固めて作っているので、むやみやたらと投げてしまうと、外した時には辺りが酒臭くなってしまう。そのため、全員が慎重になってやるしかなかった。
「この場所から少しずつ狭くして追い詰めるぞ。6匹だからな。いくぞ、今だアル!飛ばせ!」
「よし!確保したぞ、残り5匹だ!」
的確なランディの指示により次々と猿を捕獲していった。猿は首から下を水のボールに覆われて、ころんころんと転がっている。しかも、酒で作った『水のボール』なので捕獲された猿達は徐々に酔っ払っていき、大人しくなっている。
「どうだ?これで全部か?」
「いえ、あと1匹です。あっ!あいつです。あいつで最後となります」
大乱闘となったため、捕獲してる全員びしょ濡れだ。体力的にもそろそろ全員限界になっている。
「ランディ!もう樽にお酒がないよ!今やらないとあいつ逃げちゃうのに…」
「どうしよう。今、他に水を集めてもらってるけど、水もお酒も間に合わないよ」
ネロとアルが慌ててランディに訴えている。樽の中にある酒も無く、これから水を集めるにも時間がなかった。
「あいつで最後か。ボス猿だな?うむ、そうだな。あいつは俺が相手するか…ちょっとこれ貸りるぞ」
大きなテーブルクロスを引っ張り、ランディがボス猿に向かっていく。暴れ回る猿の中では一際体が大きい。
逃がさないように全員で範囲を狭めていく。その時、素早い動きでランディがボス猿に近づき肘で弾き飛ばした。その後、持っていたテーブルクロスでくるくると猿の体に巻きつけている。
あまりに素早い動きのため、猿も呆気に取られているようで、ぽかんとしていた。ボス猿は顔を外に出し、体はテーブルクロスで覆われて手出しは出来ないようになっていた。これで無事全ての猿が確保された。
「…よっと。これでいいだろう。よし、猿6匹を荷馬車に乗せて、山に帰して来てくれないか?食料も少し持って行って、山で猿に渡してくれ。残りの奴らは片付けを手伝ってくれないか?よろしく頼む」
ランディ指揮の下、猿を連れて行く者、片付ける者とテキパキと動き出す。
割れた皿や、崩れた食料などの片付けも大人数でやれば、あっという間に終わる。
「アル、ネロ。女の子達が怯えてるから、安心させて来い。終わったら帰るからな」
「「はい!」」
二人は元気のいい返事をして走って行った。ネロとアルが向かった先の女の子達からは、黄色い歓声が上がっている。ネロとアルの活躍をみんなが見ていたので、ヒーロー扱いされているのかもしれない。
「後は…大丈夫か?明日からの祭りは出来そうか?何かあれば王宮から応援を出すぞ」
「ランディ、大丈夫だよ後は任せてくれ。ありがとう!さすが国王陛下!頼りになるよ。明日からの祭りは成功させるから楽しみにしていてくれよ」
頼もしい男達の声を聞いてランディは頷く。みんな明るく前向きな国民達だ。
明日からの祭りも問題なく開催出来ると聞き、安心した。
◇ ◇
前夜祭の街からの帰り道、5人それぞれの馬に乗るが、全員上から下までびしょびしょのデロデロで泥だらけである。猿と乱闘したから仕方がない。
「あー、楽しかった!ランディかっこよかったよ。ボス猿と素手で乱闘してさ、あっという間に捕まえちゃって。相変わらず強いね。憧れちゃうな!」
「本当!水のボールで捕獲しようって言ってくれて、咄嗟に考えることが出来るなんて凄いよ!やっぱりランディのこと尊敬する。いつまでもかっこいい」
ネロとアルが興奮気味に喋っている。小さな頃からランディは憧れの大人であり、一番身近にいる目標の男だ。父親の風格もあり何でも相談できる相手として、双子は尊敬していた。
双子は身振り手振りをつけて、猿との乱闘を思い出し話をしている。若者は元気だなというレオンとクリオスの声を聞き、全員で笑っていた。
城が見えてきた。もうすぐ到着すると思い、ランディはホッとする。レオンとクリオスは「また明日!」と言い途中で別れた。
離宮に近づくと、見たことがある馬車が停まっているのがわかった。入り口には多くの人が集まり、ウロウロとしている様子が遠くからもわかる。
「…やっべえ」
「あー、まずいね…」
双子が小声で囁きあっている。
「何?何だ?どうした」
ランディが二人に話しかけた時、よく知るシルエットが離宮の前で動いた。
「ランディ!ネロ!アル!どうしたの!」
リーラが離宮の階段から大声で名を呼びながら駆け出してくるのが見える。
「…あー」
馬の上でランディは放心状態となる。
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