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第15話

 叔父に引き取られた時、彼は何を思っただろう。最初から何もかもを諦めていたわけではないはずだ。  希望が消えていく日々、誰もが許されるはずの生きることに対価を求められ、取引材料として簡単に松中に譲渡され、そして次は労働と色を求められる。そんな日々に雪也は何を諦め、そうすることで何を守ろうとしたのだろう。  わからない。そのすべては雪也がその口で語ることがない限り、弥生たちには知ることのできないものだ。  もしかしたら、雪也は何をしたところで弥生たちを信じることは無いかもしれない。だがそれでも、手を伸ばさずにはいられない。 「私はお前に〝生きて〟欲しい。それだけだよ、雪也」  ゆっくりと髪を撫でれば、ポツリと雪也の頬が濡れた。声を零すどころか瞬きひとつしない静かすぎるそれに、弥生はゆっくりと瞼を閉じた。

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