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第17話

 何一つとして問いの答えを持たなかった雪也に、好きな食べ物ができた。好きな色、好きな着物の柄、楽しい勉学に、苦手なもの。好きな花、好きな季節、心に響く物語。何一つ感情の浮かばなかったその美しいばかりの顔は、いつしか口元が緩み、頬を紅潮させ、喜びに瞼が閉じた。コロコロと響いた雪也の笑い声はやっぱり美しくて、可愛らしくて、まるで初めて赤子が自らの足で立ち上がった時かのように弥生たちは喜び、そして祝杯を挙げては雪也に不思議そうな眼差しを向けられていた。  雪也が多くを身に着けるのにさほど年月はかからなかった。しかし、だからこそ雪也は再び顔を曇らせるようになった。  いかに弥生が望んだことであったとしても、当主たる彼の父親が許し、弥生の側近たる優や紫呉が穏やかに接しようと、周りからは特に役目を持たない雪也はただの貧しい孤児が養われ贅沢をしているようにしか見えない。弥生が目を光らせているからこそ嫌がらせのようなものは一切なかったが、その責めるような視線や雰囲気に気づかぬほど雪也は愚鈍にはなれなかった。何より、雪也は知ってしまったのだ。彼らの不満の矛先が弥生や当主にも向かっているのだと。――そんなこと、あってはならない。

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