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第26話

 優しく囁いて、優は薬草をいくつか手に取って薬研に入れるとゆっくりすり潰していく。 〝毒をあらかじめ知っていれば、解毒薬を探したり対策をとることができる。知らなければ為す術なしに死を待つしかできないけど、知っていれば助けることもできるからね〟  ゴリッ、ゴリッとすり潰す音だけが響く。何を言うこともできず無言で優を見つめる雪也に、優はいつもの優しい笑みを見せた。 〝弥生はね、あんな風に見えるけど本当は熱い男なんだよね。情に厚いとも言えるし、間違ったことが大嫌いで、駄目だと分かっていても手を差し伸べたりね〟  紫呉は見るからに熱い男だけどねぇ、と笑う優に雪也はコクンと頷いた。その熱さがあったからこそ雪也は今ここに居て、彼らとの生活がある。 〝それは悪い事じゃない。だから僕も止める気はないんだけど、世の中っていうのは思っているよりも正しいことに対して寛容ではないんだよね。ま、悪事っていうのは甘い蜜だから〟  その甘い蜜を知ってしまえばもう、戻ることは難しい。そしてそういう者達にとって正論をかざす者は疎ましい存在であり、排除したい存在なのだ。 〝けっこう容赦ないもんだよ。特に弥生はその地位からして目立つから、余計に狙われやすい。だからね、こうして毒を知っておくんだ〟  弥生にも知識はあるが、弥生自身が倒れた時に彼が自身を救えるかというのは疑問が残る。だから尚更に、優が知識を詰め込むのだ。 〝紫呉はこういうの向かないって自分で豪語してるし、僕もそう思うからね。これは僕の役割。武芸なら紫呉の右に出る者はいないしね。僕も紫呉も弥生から離れるつもりはないから、適材適所ってやつかな〟  ゴリゴリと潰して粉末状になったものを、優は丁寧な手つきで懐紙に包み込む。そして再び薬草を手に取った。 〝雪也、覚えておくと良いよ。知識はね、人を生かす。時に金百両よりも価値があるんだよ〟  優しく微笑む優に、雪也は気が付けば簡単なものから教えてほしいと口に出していた。そんな雪也に優は笑みを深めると、近くにおいでと手招きをした。

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