26 / 468

第25話

〝雪也、覚えておくと良いよ。この世にある薬は、総じて毒と表裏一体なんだ、ってね〟  人を救う薬と、人を殺す毒。正反対のようで、実は少しの違いしかない。 〝上手に調合すれば、これは薬になる。僕たちが病気やケガをした時に助けになるだろう。だけど、ほんの少し分量を変えただけで、これはたちまち毒になってしまう。雪也は知っているかい? この世で一番人を弑すのは刀でも鉄砲でも大砲でもなく、この毒なんだよ〟  戦で軍を壊滅させようと思った時、誰もかれもが正々堂々いざ尋常に勝負、といくとは限らない。長い時間をかけて間者を潜り込ませていれば、敵陣に不信感を抱かれることなく食事に毒を盛ることもできる。そしてそれを食べた者達は気づいた時には手遅れだ。人間飲まず食わずで生きることなどできない。食事も水も無しにいれば戦など無くとも死に至るだろう。そこに毒が仕込まれていれば、軍をひとつ潰すことなど一瞬だ。 〝でも、将軍の立場であれば毒見役がいるはずです。流石に壊滅は無理なのでは?〟  そう雪也が問いかけると、優はやはりにこやかに微笑みながらひとつ頷いた。 〝そうだね。毒見役がいるね。でもね、即効性の毒ばかりじゃないんだよ。遅効性のものもあるし、食材だけに毒を盛るとも限らない〟  無味無臭の毒は一種類だけではない。場面によって使い分けるなど、毒に精通した者であれば容易いだろう。 〝だからね、雪也。生きるには、守るには、賢くならないと駄目なんだよ〟

ともだちにシェアしよう!