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第28話

 弥生が優の為に集めた医学書や解体書は雪也も熱心に目を通した。今も瞼を閉じればその文字を諳んじることができる。だが、医術をする勇気はない。だが、薬草を育て薬を作ることはできる。仮にそれが仕事にならなかったとしても、自らの為に薬が作れるとなれば随分と金の節約になるだろう。なにせこの辺りに薬屋はあれど随分高く、庶民には到底手が届かないのだから。  何事も動かなければ始まらない。そう気合を入れてタスキをかけると、雪也は庭へ向かった。  何度も読んだ医学書などを思い出しながら庭を整え、薬草を育てる。遊びに来た紫呉が楽しそうだと目を輝かせながら槍ではなく鍬を振るってくれたおかげもあって、雪也の予定よりも随分早く環境は整えられた。優も己の知識を惜しみなく雪也に与え助言をし、弥生は庵の中で食事を作って待っていてくれることが多かった。  そしてやっと薬草が育ち、優に教えてもらった通りに乾燥させたものを薬研を使ってすり潰していく。この辺りは屋敷でも繰り返した作業なので手の動きに迷いもない。出来上がったものを優に見せれば、彼はニコリと笑って「完璧だね」と言った。嬉しさのあまり子供のように笑みを浮かべれば、何故か紫呉が可愛い、可愛いと連呼しながら雪也を勢いよく抱きしめ、グリグリと頭を撫でまわすため髪がグシャグシャになる。その様子に弥生が紫呉を引きはがし、髪紐を解いて雪也の髪に櫛を通し整え始めた。  あのガタイの良い紫呉を細身の弥生が襟首をつかんでヒョイと転がす姿は我が目を疑うようなものであるが、屋敷にいた時には何度も目にした光景であるために今更雪也は驚かない。

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