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第29話
そんな日々を過ごしていれば、最初は見慣れぬものが急に住みだしたと警戒していた近所の者達も雪也に慣れてゆき、時折薬を求めて雪也の元へ足を運んでくる者が多くなっていった。顔見知りが増え、世間話もするようになった。最初は一人、二人と足を運ぶようになり、最終的には両の手では数えきれないほどになった。贅沢こそできないだろうが、十分に生きていくことのできる金を稼ぎ、もう弥生たちの助けがなくとも生活できるようになった。
ようやくここまで来た。雪也はホッと小さく安堵の息をついて、庵の外に出る。
屋敷を出なければと、ただその一心で弥生にこい願った。今思えば一人で生活したことのない、稼ぐ術も知らぬ世間知らずが生きていられるはずもない、無謀な願いだった。弥生がすぐに許可を出したがらなかった意味も、今の雪也ならば理解できる。結局弥生の庵を借りて生活することになり、それからも弥生たちはなにくれとなく気を使ってくれ、おかげで雪也は餓える心配もなく、稼ぐ術も身に着けることができた。最初は予想していたものよりもずっと現実は厳しくて、本当にこのままで良いのだろうか、この薬草たちは本当に育ってくれるのだろうか、育ったとして、それはちゃんと食べていけるだけの金になるのだろうかと毎晩不安に苛まれ涙が勝手に流れたものだが、その苦労はようやく報われたのだろう。
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