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第30話

 己の稼いだ金で米や野菜を買い、己の手で料理を作り、己の手で薬草を育て。そしてようやく、雪也は己の足で立ったと実感した。 (随分と、弥生兄さま達には迷惑をかけてしまったな)  それを嫌だと弥生たちが微塵も思っていなかったとしても、やはり雪也の中では罪悪感が募った。  弥生たちには数え切れぬほどの恩を貰った。もらうばかりで何もできなかったが、これからは少しでも、恩を返せるだろうか。いつか、その恩に見合うだけのものを返せるだろうか。  何も見えない暗闇に一筋の希望がようやく見えたような気がして、雪也は足取りも軽く町に向かった。今日は弥生たちが遊びにくる日だ。せっかくだから地道に覚えた料理を彼らにも食べてもらいたい。馴染みの店で足を止めた雪也は、いつもよりじっくりと目の前に並ぶ野菜たちを吟味した。 「おや雪ちゃんじゃないか! いらっしゃいッ。今日は何すんだ?」  乱れた野菜を並べなおしていた壮年の男が雪也に気づき、ニカッと笑いながら近づいてくる。そんな彼に雪也は微笑みを浮かべながら小さく会釈した。その姿は弥生に教えられた為にどこか洗練されており、町の雰囲気に馴染まず異質さを感じる。だが最初は敬遠していた彼らも月日の流れで雪也の人となりを知り、徐々に徐々に打ち解けていった。

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