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第31話

「何か美味しいものを作ろうかと思っているのですが、まだ何も決めていないんです。とびっきり美味しい野菜は何ですか?」  とびっきりのが良いと微笑む雪也に、男はピンときたのか、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべた。 「はは~ん。さては良い人でもできたかぁ? ついに雪ちゃんも結婚か? いやぁ~、この辺の女も男も大号泣になるなぁ~」  今度連れてきなよと言う男に、やっと何を勘違いされているのか悟った雪也は苦笑しながらも首を横に振った。 「まさか。そんなのではありませんよ。ただ客人が来ますから、美味しい料理を作っておもてなしをしたいなと思っているだけです」  良い人なんていませんよと、雪也は胸の内に巣食う黒い靄を押し隠すように微笑みを浮かべた。弥生にすら打ち明けることのできなかった闇が、グズグズと胸の内を苛んでいくのを覚える。このままでは吞み込まれてしまうと、雪也は殊更明るい声を出した。 「とびっきり美味しいのを作りたいのです。ですから、とびっきり美味しい野菜を頂きたいのですが。今日は何がおススメですか?」  微笑み、話を終わらせようとする雪也に、男はやれやれと言うようにヒョイと肩を竦めた。

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