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第33話

「今日はこの大根とかどうかな? 僕としてはもっと辛い大根の方が好きだけど、皆からしたら今日の大根は絶品だと思うよ~。あとはこの白菜とかどう? すごく良い感じに育ってるでしょ?」  ふわふわと微笑む蒼の言葉に大根と白菜を見る。蒼は辛いもの好きであるが、そこは若くとも商売人。蒼が指さした大根も白菜も確かに美味しそうな見た目をしている。 「お客さんって言っても春風様たちでしょ? ならあんまり形式とか拘ったりされないだろうし、鍋とかどうかな? あとは大根の煮物とかしても今日のは絶品だと思うよ~」  弥生の生家である春風家は将軍に目通りが叶うほどの身分であるが、弥生はよく町に出てきており皆にも馴染み深い。突然現れた雪也が比較的早く彼らに受け入れられたのも、おそらくは雪也の住まいが弥生所有の庵であるからだろう。おかげで弥生が来ると分かっている時は皆が、弥生はこれが好きだとか、紫呉の食欲を満たすにはこれが良いとか、色々考えて品を見せてくれる。ちなみに流石の彼らも優の好物はわからないそうで、ここでも好みひとつ悟らせない優に冷や汗を流したのは余談だ。

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