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第75話
俯き、溢れる何かを耐えるように拳を握る周を、雪也は静かに見つめた。瞼の裏に、優しい手が蘇る。
「少し前の僕なら、きっと周と同じことを言ったんだろうね」
どうして、何故、危険を冒すほどの価値など己には無いと言うのにッッ!!
「でも、今ならわかる」
ゆっくりと手を伸ばして、雪也は周の柔らかな髪をポン、ポンと撫でた。
「苦しみから助けるのに、きっと理由なんかいらない」
優しい温もりに周が恐る恐る顔を上げれば、そこには穏やかに微笑む姿があった。その姿のなんと美しく、優しく、温かいことか。
「穏やかな場所で笑っていてほしい。温もりの中で優しさを与え、与えられて。それはきっと、誰もが許されることだから」
怯えることなく、凍えることなく、守られて、愛されて。
いつか与えられた言葉が雪也の脳裏によみがえる。それに小さく頷いて、雪也はそっと周に手を差し出した。
「一緒に生きよう。それがきっと、僕たちにとっての理由となる」
差し出されたその手に、引き寄せられるように周も手を伸ばす。寸でのところで躊躇い、周は雪也を見つめた。
本当に良いのか。そう無言で問いかける周に、雪也もまた無言で頷いた。ゆっくり、ゆっくりと、亀の歩みよりも遅いだろう速さで、ようやく周は雪也の手を遠慮がちに掴む。優しく、しかし力強く握り返されたその温かな手に、周の瞳からボロボロと涙が零れ落ちた。
「っ……、っぅ……」
子供らしくない、声を殺すように泣く周を雪也は優しく抱きしめた。
「大丈夫。もう、大丈夫」
周の髪を撫でて、雪也はそう繰り返した。
どうかこの子供が、幸せに包まれますように。
(かつて弥生様が僕に願ってくれたように)
願いを込め、祈る。
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