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第86話
月明かりに照らされた裸体は白くしなやかだ。女のような膨らみや柔らかさなどは無いが、だからこその艶やかさがある。ここに男が迷いこんだなら迷わず手を伸ばしむしゃぶりつくすであろうその身体は、弥生が救ってくれた身体だ。同時に、散々男に弄られた身体でもある。
たとえ、それを望むどころか心の底から嫌悪していたとしても、弥生に救われてからの生がどれほど幸せで永遠に続けばよいと願っても、どうしてか身体は夜になると疼き、雪也を苛む。
嫌だと思うのに、もうあの地獄は終わったのだと言い聞かせるのに、そんな意志とは関係なく火照り、人肌を求める己の身体に、雪也はバチャンッッ、と勢いよく水面を殴った。
こんなに浅ましいことを、まだ無垢であろう周に知られるわけにはいかない。弥生にも優にも紫呉にも、こればかりは言えなかった。きっと大丈夫、そんなことは無いと自分に言い聞かせるが、もしも弥生たちにこの浅ましい身体が知られた時、嫌悪の目を向けられたら――。それを思うと怖くてたまらず、雪也は毎夜こうして皆が寝静まった時に庵を出ては冷たい水に浸かり、身体の火照りが治まるのを待つのだ。
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