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第99話
何かあればすぐに槍を振るえるよう構えながら、そっとムシロを横に除ける。その瞬間、ニュッと暗闇から突き出た細い手が紫呉を殴りつけようと襲い掛かってきた。それを反射的に避け、次いで逃げられないようしっかりと掴む。勢いよく引っ張ればつんのめるようにして青年が飛び出してきた。その腕には白と黒のまだらで薄汚れた何かを抱きかかえている。勢いに抗えず地面に転げたというのに、青年は片手に抱く何かを決して離すまいとするかのように胸に抱き寄せ、地面から庇っていた。
「なんだ、子供か。急に殴りかかってきたらビックリするじゃねぇか」
紫呉はこの青年が先程宿で見た影の正体だと分かっていたが、あえて彼を子供と称し、警戒を解いた。そうしなければこの青年は足掻きに足掻いて再び紫呉に殴りかかってきそうであったし、それに応戦して叩きのめすには青年の身体がひどくやせ細っていて良心がとがめる。なんとか気を静め話し合いたい紫呉であったが、そんな思いに反して青年は素早く起き上がると掴まれた腕を取り返そうと暴れに暴れた。
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