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第116話

 丁度縫い終わった時にサクラも綺麗になったようだ。雪也は由弦を呼んでダボダボの着物を脱がせると、手早く袴を着せていく。 「うん、大丈夫そうだ」  少し着物に着られている感が拭えないが、袖から手も出ているし袴の裾もくるぶしあたりで縫われているため動きを妨げることも無いだろう。動いてもはだけて胸元が見えたり袴がズレたりしないことを確認して雪也がひとつ頷けば、由弦は嬉しそうに瞳を輝かせながらパタパタと手足を動かして着物を眺めていた。 「すっげぇ綺麗な着物だな! どう? 紫呉みたいにカッコいいか?」  砕けた口調で優しく接してくれる兄のような紫呉に随分と由弦は懐いたようだ。今まで紅葉の柄が大きく描かれた子供が着るような柄の着物を着ていたせいもあるのだろう、濃い灰色の着物は大人びて見えて、由弦は様々な意味で嬉しそうにはしゃいでいた。そんな姿を見ればまだまだ子供だと弥生たちは良いそうだが、雪也はそれを口にすることは無い。 「うん。すごく似合っている。袴なら動きやすいし、サクラと走り回っても大丈夫だと思うよ」 「そうだな! 俺には着流しなんて無理だ」  無理、と力強く言い切った由弦に雪也は苦笑する。よほど動きづらかったのだろうと思えば、もしかしたら性格も紫呉に似ているのかも、なんて思った。 「紫呉さまが幾つか袴を持ってきてくださったから、同じように直しておくよ。とりあえず、それまではこの袴を着ていて。それから、これを弥生兄さまから預かっている」  針を丁寧に仕舞って、雪也は懐から組紐を取り出し由弦に差し出した。さほど長くはない組紐は赤色がとても美しい。それを受け取った由弦はキョトンとしながら首を傾げた。

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