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第118話

 少し付き合え、と将軍である茂秋に言われて、弥生は菓子を食べる将軍の前に座していた。  まだまだ年若い茂秋に海千山千の近臣たちと議論するのは存外疲れるのだろう、彼はよくこうして甘味を摘まみながら庭を何とはなしに眺めている。将軍としての気苦労を知るだけに、弥生はこの年若い君主の僅かな息抜きを静かに見守っていた。ふわりと心地の良い風が頬を撫でる。穏やかに微笑んだ弥生に、茂秋は視線を向けた。 「近頃、そなたの周りが賑やかであるそうじゃな。なんでも、身寄りのない者を庵に引き取っては面倒をみているとか。酔狂なものじゃと、噂しておる者もいる」  弥生にとっては娯楽なのだろう、相変わらずよくわからない御仁だと皆は噂する。弥生本人にそのような事を言う者は少ないが、噂が流れていることは知っていた。しかしまさか将軍の耳にも入っているとは、と弥生は苦笑する。 「賑やかであることは否定いたしませんが、引き取って面倒をみているわけではありませんよ。彼らは自分の力で生きることができますから。ただ私が心配だと言って、庵に住まわせているにすぎません」  最初は美しすぎる雪也を自分の手の届く場所以外に放てば、また彼にとって辛い日々が訪れるのではないかと危惧しての親心であったが、もう雪也は自分で自分を生かすだけのことはできる。周も自分の役割を持ち、由弦やサクラも加わって尚更賑やかな場所になるだろう。助け合うことを知る彼らは、きっと弥生が何の援助もしなかったとしても普通に生きていくことができる。最初は手を離してはならないと心配で仕方なかったが、いつの間にかあの賑やかで温かな場所を自分こそが手放せなくなっていた。

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