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第119話

「随分と見目麗しい者もいると聞く。中にはそなたが囲っているのだという噂もあるが、囲っているわけではなく親心というところか?」  下世話な噂はどこにでもあるが、一歩間違えればそれが命取りになることもある。それは確固たる地位を築いてきた春風であっても例外はなく、むしろその地位ゆえに妬む者も多いだろう。どうやら茂秋は他愛もない話を装って真偽を確かめたかったようだ。それが弥生を案じるが故とわかるだけに、気分を害することはないが。  ふわり、ふわりと穏やかな風が吹く。美しく整えられた庭にキラキラと輝く太陽が降り注ぎ、鳥のさえずりが心地よい。風に誘われるがままに庭へ視線を向けて、弥生は口元に笑みを浮かべた。 「夢を見ているのですよ。私はあの子達に、己の夢を託しているのかもしれません」 「夢、とな?」  弥生の見る夢とは何なのか。そう眼差しで問いかける茂秋に、庭から視線を戻した弥生は穏やかに微笑んでゆっくりと瞬きをした。 「上様、上様はご存知でございますか? 同じ国に生きているというのに、この穏やかな風を感じることもできぬ者がいることを。美しき花を愛でることも、明日を喜ぶこともできない。苦痛や屈辱に耐え、ただ耐え、明日に怯えることしかできぬ者がいることを」  腹を満たすこともできず、いつだって空腹で。弥生たちよりもうんと身体を酷使し汗もかくというのに風呂などは贅沢で、粗末な服しか与えられない。裸足で土を踏み、熱さに体力を奪われ、寒さに凍え、己という存在すら凌辱される。

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