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第120話

「庵に住まっている者達は、皆が我々には想像も出来ないほどの環境に身を置き、辛酸を舐めてきました。だからこそ、私は彼らに夢を託しているのかもしれない」  雪也達に比べれば、弥生はもちろん、優も紫呉も、うんと恵まれている。自分達の生活と、雪也達の今までを知るからこそ、弥生は願うのだ。 「本当は武家である私がこのようなことを、それも上様に申し上げるのは間違っていると思うのですが、それでも、私は〝上様〟に申し上げましょう」  傍らに置いた自らの刀に視線を落とし、そっと鞘を撫でた。この鞘の内側には、人の命など容易く奪うことのできる刃が隠れている。 「いつか、刀や銃を見たことも無いと誰もが言う世界になれば良い。人が人を傷つけることのない世界。奪われることなく、怯えることなく、涙で刃を握ることも、理不尽に諦めることもなく、愛し愛され、何に怯えることのない世界。〝悲惨〟が消えた世界を、願うのです」  身分なく、差別なく、ただ搾取されることもない。誰もが自由に夢を抱き、腹を満たせ、理不尽な暴力に怯えることなく、明日に希望を持てたなら。

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