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第121話

「あの子達が、辛酸を舐めつくしたあの子達が、生を喜ぶことのできる場所を作りたいのです。穏やかな生を営み、他愛ない話で笑い、泣き、怒って、自分というものを消す必要もない。彼らが心の底から笑い、安堵して日々を過ごせたなら、私の願う世界がいつかきっと現実のものとなる。そう、夢を見ているのです」  それは武家を纏め、頂点に立つ将軍に言うには、随分と不敬で大それた夢だ。刀と銃の無い世界は、すなわち武官が無くなる世界でもある。武官が無くなれば、武でもって将軍の地位にある将軍家もどうなるかわからない。将軍家を潰そうと願っているのかとこの場で首を刎ねられても仕方のないことを弥生は言ったというのに、茂秋は穏やかに笑みを浮かべながら弥生の言葉を肯定するようにゆっくりと頷いた。 「我らの祖は武力でもってこの国をひとつにまとめ、統治してまいった。誰もが刀を握り、どれだけ敵を屠り、一歩も二歩も先を読み、そして奪う。それが当たり前の時代であったからこそ、我らの祖は正しく、正義であったのだろう。じゃが、時は流れる」

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