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第130話
謝り倒す男にため息をつきながら、雪也は掴まれていた腕をそっと袖の中に隠す。その白い腕に真っ赤な男の手形が残っているのを目ざとく見つけて、いったいどれほど強い力で掴んだのかと周は唇を噛んだ。ギロリと男を睨むが、男は周を子供と侮っているので気にすることなく雪也に向き直る。そんな男に周は掴みかからんほど怒り狂っていたが、雪也がポンポンと背を優しく叩いてくるため、仕方なく口をつぐんだ。歯を立て過ぎたのか、プツリと唇が切れ、口内に鉄の味が広がる。だが、それを知るのは周だけだ。男は周を見ることなく雪也に口を開いた。
「茶屋の前で男がなんか暴れててよ、茶屋のお小夜さんが怪我しちまって、でも男はまだそこにいるからお小夜さんを医者に連れて行くにも無理でよ。そもそもここらの医者は料金が高くて俺たちには無理だ。んで皆が雪也ちゃんならって言うからよ、俺が呼んでくるって言ったんだ」
なるほど、と雪也が理解した瞬間に、その袖を周が掴んだ。見れば無言ではあるものの心配そうな顔をしている。おそらく周は未だ男達が暴れているところに雪也を行かせたくないのだろう。そんな周に大丈夫だと手をポンポンと優しく撫でて、雪也は男に少し待つよう言って周を促し奥へ向かった。
「そういうことなら道具を持って行かないと、流石に何もない状態では治療もできませんから」
そんなことを言いながら雪也は手早く引き出しを開けると軟膏を取り出し、小指で周の赤くなった唇に塗ると、手早く薬や軟膏、包帯などをカゴに入れていった。
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