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第148話
庵の扉が閉められた音を聞いて少しした後、ゆっくりと周は起き上がった。どうやら男への怒りで少し興奮していたのか、眠りの浅かった周は雪也が起き上がった時の、ほんのわずかな衣擦れの音で目を覚ましたのだが、雪也の様子がおかしく見えて寝たふりをしていたのだ。
(たしか、ここ……)
雪也が何かの薬を取り出した引き出しに向かい、幾つか入れられている薬包のひとつを手に取る。雪也が作る薬包の紙はすべて同じで、見た目だけでは何の薬かわからない。かといって、周は薬に関して無知だ。中を確かめたところでその効能を知ることは不可能だろう。
けれど、この薬は何か怪しい。普通の薬ならば雪也があのように人目を避けて飲むだろうか?
(雪也……)
周は雪也の過去を知らない。今日も、男に対して不快に思っているようではあったが、それ以外の感情を雪也は見せなかった。けれど、今日の雪也は今までの雪也と何かが違う。何故と言われれば、わからないとしか言えないのだが、それでも、周の目には違うように思えた。
(この薬……)
少し考えて、周はその薬包を懐に仕舞うと足音を立てぬよう布団に戻り、眠ったフリをした。努めてゆっくりとした寝息を零し、瞼を閉じる。しばらくすれば足音も立てず雪也が戻ってきて、布団に横になったのがわかった。
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