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第180話

(由弦にとって紫呉さまは、特別だもんね)  弥生が言うには、由弦を見つけ連れてきたのは紫呉であったらしい。だからだろうか、由弦は紫呉に一等懐き、来訪を心待ちにし、憧れているように見えた。袴の色合わせや立ち振る舞いがどこか紫呉に似ているのは、きっと偶然などではないだろう。  だから、 「由弦は身体を動かすのが上手いから、槍も使いこなせるかもしれないね。流石に紫呉さまの槍を頂くわけにはいかないから、練習用の槍を弥生兄さまに貸していただけるようお願いしてみるとかどう?」  この町にも刀鍛冶がいるとはいえ、流石に刀も槍も高価だ。そう簡単に買ってあげるとは言えない。だが雪也は弥生の屋敷にいた時、使われていない刀や槍が保管されていることを知っていた。欲しいと言っては厚顔かもしれないが、紫呉がやって来た時に練習するだけならば貸してくれるかもしれない。そう思って弥生に視線を向ければ、彼は当然といったように頷いた。 「武器の管理は紫呉に任せているが、使っていない槍もあるはずだから、それを使うが良い。お前たちには不要かもしれんが、まだまだ世の中は物騒だからな。いざという時の為に戦い方は覚えておいた方が良いだろう」  せめて、自分の身が守れるくらいには。  そんな無言の願いが込められた許可に、由弦は飛び上がらんばかりに喜び、勢い余って周に抱き着いた。急に抱き着かれた周は「ふぎゃッ」と声を上げてもがくが、サクラを一日に何度も抱き上げている由弦の筋力は伊達ではなく、逃れることができない。そんな二人をニコニコと眺めていた雪也は、チラと弥生たちが持ってきた食材を見て弥生に向き直った。

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