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第184話
「周はまだ子供だよ。ま、僕らから言ったら雪也もまだ子供だけどね」
周の心配など察しているだろうに、それをのらりくらりと躱すことしかできない雪也もまた、周が思うほど大人になりきれてはいない。割り切るには、嘘を貫き通すには、まだまだ未熟だ。わかっているからこそ、雪也は逃げるのだ。
「なぁ弥生、これって何だ? 弥生の家紋?」
瞳を輝かせて刀を見ていた由弦が、そんなことを言う。それに周は視線を向けた。有事の時に使うためだからと、普段は隠されているその刀。周とて片手で数えられるほどしか見たことは無い。その刀の鞘を見つめ、由弦は首を傾げている。不思議に思って周も近づき、由弦の視線を追った。
そこにあったのは、小さく掘られた丸い柄。すべてが楕円形で出来た、花のような形のそれに周も首を傾げる。これは何であろうか?
「あぁ、それは弥生の家紋じゃねぇよ。それは雪也が作ったやつだな」
由弦の問いに答えたのは紫呉だった。弥生は当時を思い出しているのか、柔らかな笑みを零している。
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