197 / 647
第196話
よっしゃ来い! とばかりに構える紫呉に由弦は勢いよく突撃していくが、先程から軽々と避けられ、あるいは腕を掴まれては放り投げられていた。これでも紫呉を注意深く見て隙を探し、戦法を変えたりもしているというのに、紫呉は余裕の笑みを浮かべたまま僅かも動くことなく由弦や湊をいなしていく。放り投げられる時も怪我をしないようにと思われているのがわかってしまうほどに手加減をされていて、由弦は悔しくて悔しくてしかたがなかった。思わずむぅッ、とふくれっ面になれば、紫呉は大口を開けて笑う。
「んな、すぐにやられてちゃ弥生の護衛なんて務まるわけねぇだろ。こっちはいつでも実戦みたいなもんなんだからよ。だから敵わなくて当たり前なんだ。そうふくれるなって」
可愛い顔が台無しだぞ、と紫呉は両手を伸ばして由弦の頬を包み、解すようにムニムニと揉んだ。やめろぉぉぉぉ、と由弦は暴れて後ろに下がるが、それさえも可愛いとばかりに紫呉は笑う。そんな二人を見て湊は着物の土を手で叩き落としながらクスクスと肩を震わせた。
ともだちにシェアしよう!