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第197話

「紫呉さんの前だと俺らも子供だなぁ。多分二人で行っても紫呉さんは片手でどうにかできそう」  それはただの例えであったのだが、由弦は勢いよく湊を振り返ると真剣な顔をして首を横に振った。 「ダメだって! 一対二とか卑怯だから!」 「そこ?」  由弦からすれば、いくら紫呉が強くても正々堂々勝負すべきで、一対二などあり得ない。当たり前だろうと断言する由弦に、湊は苦笑した。 「ま、由弦のそういうところ好きだけどね」  いっそ潔癖なほどに真っ直ぐで、誰に対しても平等。その明るさも相まって、まるで太陽のようだと湊は思う。彼の側は、とても明るい。だから思いそのままに口にすれば、由弦は照れるどころかニカッと笑った。 「俺も湊のこと好き!」  それは誰が聞いても〝友として〟好きという言葉だった。湊も友として言ったのだから、その返事に嬉しさはあれど、その他の感情など芽生えない。だが、ふと気が付いてチラと視線を向ければ、紫呉は先程までの不敵な笑みを消し、どこか複雑そうに苦笑していた。あからさまなその姿に、湊はクスリと小さく笑う。彼も不憫なことだ。

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