223 / 647
第222話
(水に浸かって寒い、ってわけじゃねぇよな……流石に)
修行でもないのだから、寒ければさっさと水から上がれば良いだけの話だ。しかし雪也は水から上がるどころかさらに深く深く水に身を沈め始めた。
ここで飛び出して無理矢理雪也を引き上げるのは容易い。だがそれをしても雪也はまた連日連夜この行為を繰り返すだろう。もしかすれば紫呉に知られたとわかって、薬の量を増やしてしまうかもしれない。基本的に直情的で考えることが苦手な紫呉ではあるが、以前動いてはいけないと言った弥生の言葉を忘れたわけではなかった。
瞼を閉じ、息を殺して、耳を澄ませる。風に揺られて騒めく葉音に紛れて、ピチャン、と微かな水音が聞こえた。噛み殺しきれなかったのだろう、微かな吐息が零れ落ちる。その吐息が僅かに熱を孕んでいるのだと気づいて、紫呉はハッと目を開いた。
(あいつ、もしかして……)
チラと慎重に視線を向ければ、雪也は静かに水に浸かってこそいるが、見えている首や耳などは赤く染まっている。おそらく紫呉の予想したものであっているだろうが、ならば尚更に紫呉がここに居ると気づかれてはならない。
ともだちにシェアしよう!