226 / 647
第225話
紫呉は考えることは苦手だが、獣のように感覚は鋭い。雪也を心配する周の瞳の奥に鈍く光るものがあることは早々にわかっていた。それが、何という名の感情であるのかも。
それを雪也が受け入れるかどうかは、わからない。こればかりは本人次第だ。他人がどうこう言ったって、くっつく時はくっつくし、駄目な時は駄目なのだ。
それでも、そこらにいる人間よりは希望がある。周は、雪也が自分の手で救い、庵に引き入れた存在なのだから。
「いつか……」
雪也が幸せになれば良い。ポツリと呟いて紫呉は雪也に手を伸ばす。スゥスゥと寝息を零していた由弦が小さく唇を噛んだ。その時、ムクリとサクラが起き上がってトテトテと狭い布団の隙間を縫って歩く。雪也の美しい黒髪を撫でようと伸ばされた手は、しかしポフッと柔らかな毛玉に触れた。
「なんだサクラ、起きて早々のおねだりか?」
小さな身体で精一杯に首をのけぞらせ、紫呉にナデナデを催促してくるサクラに、紫呉は驚きながらも小さく笑みを零す。
「ほら、そこは布団もないから寒いぞ」
丁度雪也と紫呉の間には布団がなく、板の間が見えている。紫呉はサクラを抱き上げると、そのままグルンと寝がえりをうって己と由弦の間にサクラを降ろし、サクラごと由弦を抱きしめて瞼を閉じた。抱きしめた瞬間、ギュっと由弦が瞼に力を込めたのがわかったが、紫呉は何も言わず、その背をポンポンと撫でる。小さく欠伸を零し、紫呉は腕の中の温もりを感じながら深い眠りについた。
ともだちにシェアしよう!