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第236話
いつも雪也の薬を買ってくれる老夫婦が、友人にもお願いしたいと一人の夫人を紹介したのはつい先日のことだ。老夫婦と同じ歳の夫人は随分と足を痛めており起き上がるのも辛そうであったが、城下町にある大きな薬屋は遠く、そして随分と高価でとても買うことはできなかったそうだ。夫人には年頃の娘が一人おり、彼女が思いつめて遊郭に身売りに行くとまで言ったようだが、娘を可愛がっている夫人が泣いて反対し、月に一度ほど顔を見せる友人の老夫婦に相談したらしい。
夫人の住む長屋は雪也が住む庵から随分と離れているが、それでも構わない、薬も届けると初めて顔を合わせた時に雪也は約束した。老夫婦は娘に惚れたのか? と楽しそうに妄想していたが、決してそんな理由ではない。
雪也は世間知らずではあるが、何も知らないわけではない。雪也には、夫人が泣いて娘を止めた理由が痛いほどわかるのだ。
老夫婦が妄想してしまうほどに夫人の娘は美しいが、同時に見た目でわかるくらいには雪也よりも年上だ。つまり、もう充分に大人として成長してしまっている。遊郭で春をひさぐ女たちは子供の頃から稽古をつけられることが多く、大人になってからその道に足を入れる者もいるが、そういった者の多くは規律ある店ではなく、場末の娼館で多くの男を相手にし日銭を稼ぐことになる。
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