238 / 647

第237話

 花街は色を売る場所ではあるが、美しさだけでは駄目なのだ。男を楽しませるだけの上等な芸、飽きさせないだけの話術と、その為に必要な知識。そして人間であれば誰しも永遠に持つことは許されない若さ。それが揃ってようやく、それなりの待遇を得られる。  今も娘は茶屋の手伝いとして働いている。花街に行くと言ったのは母親の薬を調達しようとしてのことなのだから、雪也が薬を調合すれば、彼女は春をひさぐ必要はなくなる。贅沢はできないかもしれないが、それなりに食べられ、雨風しのぐ家の家賃も払うことができる。あれほどに美人であるなら、結婚を望む男も多いだろう。それがわかるからこそ、雪也は薬の調合を請け負った。 「末子おばあちゃん、雪也です。入りますね」  声をかけて、年季の入った暖簾を横に避け入る。横に視線を向ければ、すぐ傍に敷かれた布団の上で足を延ばしながら座っている夫人――末子の姿があった。 「よく来てくれたねぇ、雪也ちゃん」  目尻の皺を深くしながらニコニコと微笑む末子に雪也も微笑んで、そっとその傍に腰かける。カゴに入れていた風呂敷から、幾つかの薬包を取り出した。

ともだちにシェアしよう!